保存管理に向けた市の取り組み

しかし、同地を管理するさいたま市もこれらの事情を黙って見ているわけではなかった。

市教育委員会では、2010〜2013年度にかけて保存管理計画策定事業を実施。現状調査や委員会による検討を経て、2014年に保存管理計画を策定した。同計画をもとに、保存管理に向けた取り組みが以下3つの基本方針に則って行われている。

  • 自生地内での保全活動推進
  • 周辺との一体的な環境保全
  • 自生地の価値の普及・啓発及び積極的な活用

自生地内での保全活動推進

同地内での保全活動としては、同種の植生を撹乱する外来植物の駆除や冬枯れした植物の除去や各種調査が主となる。

このうち冬枯れした植物の除去では毎年冬に刈入れや野焼きを行うことで、春に発芽する同種に日光がよく当たるようにしている。

また調査としては生態調査はもちろん、同種をはじめとする希少植物増殖のための保護増殖実験調査も行われている。同実験で増殖された同種幼苗は荒川彩湖公園内にも植えられているという。

周辺との一体的な環境保全

同地周辺の環境ははその植生に大きく影響する。

このため同地周辺は緩衝帯に位置付けられ、優先的に同地影響の抑制や低減が図られている。例えば、外来種や園芸植物の抑制や同地に日光を妨げうる隣接樹木の伐採などの取り組みがなされている。

地下水位の下降も問題となったが、既存排水設備の除去や同地への導水システム導入、透水性アスファルト舗装の除去や駐車場の再整備により土壌の保湿性を高める取り組みにより解消が試みられている。

加えて案内板の設置や観察路の整備などにより観察・管理設備の充実も図られている。

自生地の価値の普及・啓発及び積極的な活用

同地の保存管理に主体的に取り組んできた同市だが、その環境保全を考える時隣接する都市公園や鴨川の排水路、県営公園などの存在の考慮なしに行うのは困難である。

そのため近接する公共施設等を所管する行政機関と同地の現状と課題について認識共通化を図り、一体的保存管理に向けた協働体制を築くことが求められる。そして市民の理解と協働も合わせて重要だ。

こうした認識のもと、同市文化財保護部局が中心となって田島ヶ原サクラソウ自生地連絡会が組まれている。文化庁や県教育委員会、荒川第一調整池を所管する国土交通省や秋ヶ瀬公園を所管する県などの機関が情報・認識を共有する。

学識経験者の指導・助言も受けつつ、市民・ボランティアと連携しながら一体的な保存管理体制構築を目指している。

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保護に取り組むボランティア団体

ところで、同地の保護に取り組むボランティア団体も活動している。

それが田島ケ原サクラソウ自生地を守る会だ。

1997年に活動を開始した同会は、市教育委員会文化財保護課と連携して春の開花シーズンを中心に普及・保護活動に尽力している。

同地でのガイドや説明を通じて、かけがえの無い自然遺産を守り育てていくことの大切さを訴えている。青いジャージを纏い、その背中にはサクラソウの絵を配する。開花シーズンが終わっても定期的に同地の模様をネット上で配信し、その啓発にあたっている。

主な会員の年代も30代から70代と幅広く、満18歳以上で同地の保護に理解と関心がある者であれば参加することができる。

さながら記念物指定に動いた深井貞亮も所属した保勝会の系譜を受け継いだようだ。

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総括・あとがき

今年で天然記念物指定から100年を迎える田島ヶ原のサクラソウ。

100年以上も前から地域の人々に愛され、学術的にもその希少性が認められ晴れて国内の天然記念物第一号の仲間入りをした。

しかし、旧来より盗掘や周囲の開発などといった諸問題に悩まされ、特別天然記念物であるにも関わらずその数は減少傾向にある。

それでもさいたま市当局を中心に保存管理の取り組みが行われており、同地を守る会ら市民の手によっても保存や啓発が行われている。

都市の近くにありながら希少な同種が咲く同地は地域にとっての誇りであり、我々の生活により失われうることは常に肝に銘じるべきである。天然記念物100年という節目だからこそ、改めて我々が同地を次の世代に残していくためにできることは何か考えるべき時が来ているのではなかろうか。

おわり

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