今年で天然記念物に指定されて100年となる田島ヶ原(さいたま市桜区)自生のサクラソウ。
前回は同地の紹介や指定の経緯について説明したが、今回はその現状と保存管理に向けた取り組みを紹介する。
個体数、15年で1/4に減少
同地を管理するさいたま市は、開花時期である毎年4月に同種の生育状況調査を実施している。
第一次指定地に10m×10mの調査枠を11ヵ所設置し枠内のサクラソウの生育個体数と開花個体数を数えることで、自生地全体の個体数を推測している。
昨年は54万株が生育しているとされたが、これは15年前の1/4以下の数値となっている。
1980年代頃より徐々に増え2004年にピークとなる235万株を数えるが、その後は2010年を除き急激に減少。結果的に1980年代の水準に後退してしまった。
同種を取り巻く諸問題
特別天然記念物に指定されるほど希少性の高い同地のサクラソウだが、その周りには多くの問題が取り巻いている。
繁殖の難しさ
一つが繁殖の難しさだ。
同種は種子か地下茎によるクローンにより繁殖するが、同地では夏季に表土が乾燥して固く絞まるため発芽した幼苗の多くが枯れてしまい種子繁殖が期待できない。
なおかつ同種は虫媒花であるが、湿地である同地には有効な媒介昆虫が見出されておらず、他家受粉が期待できないのも拍車をかけている。
このため現在生育している個体のほとんどは地下茎によるクローンだが、地下茎には寿命があるためその数が次第に減少に転じていると見られる。
地下水位の変動
地下水位の変動も課題だ。
同地はかつて毎年洪水による冠水が起きる低湿地だったが、河川管理が進んだことで冠水に見舞われることは少なくなった。
しかしそのことでかえって土壌の乾燥が起きており、その原因の一つが地下水位の変動とされている。
同地の地下水位は1930年の時点で地下1mだったが、1930〜34年にかけて同地東側に鴨川第2放水路が築かれたことで地下水や表層水が流出。完成後には4mにまで降下した。
(さいたま市資料より)
加えて1974年にさくら草公園が開設された際には多くの排水溝が設けられ、降雨が速やかに排水されるようになった。このことで土壌の乾燥がますます進行している。
ゴミやヘドロの流入
2003年、同地近くの羽根倉橋から戸田市・笹目橋にかけて3900万㎡の貯水量を有する荒川第一調節池が竣工し稼働を開始した。
同地側へはサクラソウ水門が設けられ出水時に同地が冠水するよう便宜を図ったのだが、その分多くのゴミが流入し同地の生態系に変化が見られるようになった。
また鴨川が氾濫した際にはヘドロが流入し、同地の富栄養化が進行して生態系がさらに崩れるといった問題も起きている。