貧困救済のために始めましたなんて誰も言えない

東京新聞の記事によると、ファミマが始めたこども食堂は、「コンビニの地域密着策として社内で発表された。実際のこども食堂も地域の交流拠点と位置づけられているのでこの名称にした。目的は第一に地域活性化だが、結果としてこどもの見守りなどにつながれば良い(広報室)」という建て付けとなっている。

労組系論者は、こうしたこども食堂に「違和感」を抱く、と反発を強める。
だが、ファミマのような全国展開をする大手の企業が、仮に「これは貧困救済のためだ」と発表したとすると、今度は、「貧困対策と名打つ場に、貧困のこどもが参加できるわけがない。そんなこともわからないのか」という批判が飛び出してくるに違いない。
そういう空気を事前に察知した結果、ファミマが大人の表現としての「地域交流目的」という言葉を使ったことは明白だ。草の根のこども食堂各団体も、貧困救済のためとは決して口にしない。地域共生のためという表現をあえて使うよう心掛けている。それは貧困児童への最低限の配慮だ。

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企業の役割は草の根の活動を加速させるブースター

経営の世界では、「市場のライフサイクル」という言葉が日常的に使われる。
市場には、①導入期、②成長期、③成熟期、④衰退期があり、一般的に企業がその市場に参入を図るタイミングは、②の成長期が最も合理的と言われている。
それは、市場が急速に拡大し、プレイヤーの数が増え、訴求効果を狙える顧客の数が指数関数的に増える時期であり、かつ、③の成熟期の前に、市場の中でのポジショニングを構築しやすい絶妙なタイミングだからだ。①の導入期は、市場の行く末が見えにくいため、社内で市場参入の合意を得るのが難しい。

これをこども食堂の世界に置き換えて考えると、①の導入期は、草の根の非営利活動団体が苦心して、市場を切り開いた。市場が拡大し、全国的にも「こども食堂」と呼ばれる場所が2,000か所を超え、企業としては、②の拡大期に入ったことが確認できたため、企業内での合意も取れ、ファミマはこの段階で参入を決めたのであろう。

本来は、従来型のCSR(企業の社会的責任の観点から行う社会貢献活動)でも良かったはずだ。ファミマ従業員にボランティア休暇を取らせ、こども食堂などの草の根の取組に、一市民として参加を促す仕組みでも、十分な効果が出たかもしれない。だが。ファミマは、自らの拠点をこども食堂化する、という大きな選択をした。なぜなのか。

企業のCSRに詳しい公認会計士の山口揚平氏は、ファミマの今回の狙いをこう分析する。
「企業は社会の公器。

これは経営の神様と言われる故松下幸之助氏の名言であり、日本的経営の大黒柱とも言える思想。この点から見ると、今回の先進的と言われるCSR活動も霞んで見えなくもない。それはともかく、コンビニだけではなく、小売業は廃棄物の問題に悩まされている。今回の取り組みは、一部廃棄物の削減に寄与しつつ、多少なりのお金を受けとる。しかも参加者の親はおそらく、ファミマで何か商品を購入するだろう。三方良しのCSR活動と言えるが、かなり計算された営利活動という見方もできる。

ただ、公器として地域との共生を目指した小さな一歩である事は間違いない。海外のCSR活動の中には、自社の製品やサービスを活かして社会の課題にダイレクトに関わろうとする素晴らしい取り組みが出始めている。ファミマのこの一歩がきっかけとなり、社会の公器たる日本企業が行うCSR活動が海外に発信されるようになれば、関わったこどもたちも喜ぶに違いない」。

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営利性を伴うCSRは悪なのか

もう一人、コンビニ業界の動向に詳しく、本業の傍ら、こども食堂への支援も行っている公認会計士の眞山徳人氏は、今回の一覧のファミマこども食堂への賛否両論をこう分析する。

「こども食堂の運営は一筋縄ではない。場所を予約してチラシなどを配って告知し、突然の参加を想定して多めに食事を用意し、残飯が出ればボランティアが持ち帰って処分する。当然、支出が先行してくるため、どこかからお金を集めるプロセスも必要になる。ファミマのこども食堂は、そうした困難のほとんどを難なくクリアできる素晴らしい取り組みだと素直に評価したい。また、私はCSRが営利性を伴ったとしても問題はないと考えている。CSRには、奉仕や自己犠牲と言ったイメージが付きまとうが、無駄な費用のかからない形態のほうが無理なく継続でき、こども食堂を必要としているご家庭を長期的に支援できることにもつながる。結果としてそういった企業を評価する消費者が増え、経営にもメリットが出るのであれば、まさに三方良しではないかと思う」。

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