【こども食堂通信】こどもの目線が抜け落ちたファミマこども食堂論再考~ファミマこども食堂を巡る賛否両論分析・続編~

(写真:こども応援ネットワーク埼玉)

ファミマによるこども支援に待ったをかける「大人」の論理

東京新聞が、2019年2月15日付で組んだファミマこども食堂に関する特集記事(第24・25面の「こちら特報部」)には、大きな見出しでこう書かれている。

「ファミマこども食堂に賛否」
「見守り機能ある?」
「低賃金のコンビニ職場」
「本業で貧困解消が先」

この特集記事が読者に伝えたいポイントは、以下のとおりだ。

  • 「こども食堂」のネーミングからはこどもの貧困対策を想像するが、ファミマはそうはうたっていない。「地域活性化」が目的とのこと。
  • 「豊島こどもWAKUWAKUネットワーク」など、こども食堂業界の中核となる団体からは、「こどもを見守る姿勢を企業が示すのは大歓迎」と、ファミマこども食堂を肯定歓迎する意見が出ている。
  • しかし、コンビニ系ユニオン(労働組合)執行委員長で、兵庫県内で店舗を実際に営むオーナーは、「こども食堂のイメージとは違う」と違和感を表明。
  •  貧困対策に取り組むNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏は「そもそもコンビニは貧困問題の発生源。他にやることがある」と批判。
  •  東京新聞としては、ファミマの狙いが単に宣伝目的とは思わない。だが、「こども食堂」を名乗るのなら「場所と食材を提供するので、地域の皆さん、ボランティアでやってみませんか」と呼びかける方がベターでは、と記事を締める。

もう少しシンプルに整理してみよう。この東京新聞の記事が伝えたいのは、要約すれば以下の3点だ。

  • 従来のこども食堂の関係者は、ファミマこども食堂を「歓迎」。なぜなら、こども食堂業界に「企業」という新たなプレイヤーが参入することは、こどもたちのメリットにつながるため。
  • しかし労組(労働組合)系の立場からは、「反対」意見が噴出。
  •  反対の主張は、ファミマがこども食堂業界に参入する前に、「もっとやるべきことがあるだろう」。

勘の良い方はすでにお気づきかと思うが、この二者間の意見で、こども食堂関係者は、「こどもの目線」から見て歓迎、と述べているのに対し、労組関係者は、「大人である労働者」の目線で反対と言っている。

労組系論者の主張を集約すると、こどもの支援に乗り出すより、まずは労働者の「支援」を実施して欲しい、という論理となる。これは一見正しいようにも見える。
だが、戦後、そうした「大人の論理」が世の中の多数派であり続けた結果、力を持たないこどもたちが取り残され、今の惨状を招いたというのも事実だ。

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こども vs 労働者 の対立軸を生み出す愚

労働者がより良い生活を送ることに優先順位を置く。そのことにより、本当の意味での貧困問題が解決するのだ、というのが、労組系論者の主張の核であるが、果たしてそれは本当なのか?

福祉分野や公会計など、非営利の会計分野に詳しい公認会計士の奥富進介氏は、「非営利分野は、投資の回収やリターンを得るという視点がなく、資金調達の間口が少ない。今回の動きは、ファミマという大資本が、こども食堂のような非営利活動でも、長期的に会社の利益になるという意思決定のあらわれであるとも考えられる。また、労働者視点も大切だが、子をもつ労働者と、そうでない労働者を一括りにした議論は、労働者そのものの分断にもつながるのではないか」と警鐘をならす。

1972年に、当時の田中角栄首相が打ち出した、「日本列島改造論」は、公共インフラの大量建設と巨額の財政出動を行うことで、日本に空前の高度経済成長をもたらした。戦後の経済苦から這い上がろうとする大人たちが待ち望んでいた労働者の論理を、当時の田中首相が具現化したのだ。

だがそれはまた、富の集中をもたらし貧富の差が拡大。その後、バブル経済とその崩壊、そしてリーマンショックという世界大恐慌を経て、日本経済も崩壊。7人に1人の貧困児が誕生し、社会から取り残される結果となった。

こどもの貧困に対応する前に他にやるべきことがある、というのは、こどものケアよりまずは大人(親である労働者)のケアが先であるという、これまでに幾度となく繰り返されてきた、「票を持つ大人」たちの主張と、実は根っこは同じだ。「その前に他にやるべきこと」が完了する間、こどもたちはまたも社会から放置され続けることになるのだろうか。

こどもの貧困も、大人の貧困も、今目の前に置かれたそこにある危機であり、どちらが先かではなく、同時に手を打つべき社内の重要課題である。とりわけ、「有権者ではない」こどもたちへのケアは、こども側の目線で動いてくれる大人の数がまだまだ社会に少ないという点において、福祉的観点からも特に優先されるべきものだ。

ファミマこども食堂がこどもに特化した施策を打とうとすると、「それは本来の福祉的な企業活動のあるべき姿ではない。こどもの支援よりまずは大人をケアするのが先」と、福祉の現場から声があがる。だがそれは、実はこども目線に立った本来の福祉の現場からの声ではない。「労働組合という業」を進めやすくせんがための、「特定の利害関係を持つ大人たち」、と見るべきだ。

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