【商店街最前線】前例蹴飛ばしてこそー秩父・みやのかわ商店街<上>

ECが普及しチェーンストアの発展によるサービス・品質の画一化が進む少子高齢の時代において、埼玉県内でユニークな発想や気づきをもとに頑張る商店街に密着する。

初回はナイトバザールで知られる、みやのかわ商店街振興組合(同市宮側町)に密着した。

フクロウの看板の意味とは

同商店街には120店舗が所属し、飲食店をはじめ理容室や金物店など業種も多種多様。秩父鉄道秩父駅から東西に伸びる県道208号線と周辺で交差し南北に走る国道299号線という大きな通りがある。そうした通り沿いだけでなく、駅前を中心とした面として展開しているのが特徴と言える。

全国的に商店街の衰退が報じられている中であっても、「店舗の数は減っていない」と同組合前理事長で同市商店連盟連合会の島田憲一会長。毎年2・3店舗若い世代による加入があり、地域に空き店舗はほとんどない。

同商店街に加入する店舗には、フクロウをかたどった看板がついているものが多い。「しょくどう」「お茶」「味の散歩道」と、表に出ている店名とは異なる文言も書かれている。

店名を聞いても何を扱っている店舗なのか初心者にはわからないこともあるので、わかりやすい表示とした。街路灯にもナンバリングがされていて、外国人をはじめとする来訪客への配慮も感じられる。

特に、フクロウは近隣の秩父神社の守り神であり、その御神木であるイチョウも象った。地域の文化を商店街に生かすまちづくりが実践されている。

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300回のナイトバザール、継続の秘訣とは

危機感のもと開催


同商店街といえば、伝統のナイトバザールで知られる。1987年10月より定期的に開催されており、昨年10月の開催で節目の300回となった。

名前の通りに道路を封鎖しての夜市だけでなく、サンバ隊によるサンバ実演や大野元裕知事なども招いての鏡開きも行われるなど、盛大に執り行われている。

そもそものきっかけは40年前、秩父市役所が近隣の秩父神社前から西武秩父駅近くに移ったことにあると島田会長。街の中心が移ったことで、「このままいったらうちの商店街がだめになる」という危機感を感じていた。そこで何かをしないと思った時に、地域の文化である秩父夜祭などに着想を得て同祭を始めた。まずは6回思いつくままに実施したが、予想外に集客や収益が生まれていった。

「ほとんどの街だとこの『何か』が見つからない」と島田会長。うまく自分たちで見出して行動を起こしていったことが、大きな自信につながっている。

「同じことはしない」


そのようにして始まった同祭も300回を数えるまでになったが、その継続に肝心なのは「同じことをしなかったこと」と島田会長は振り返る。

イベントで同じことをすると、何回かで飽きれられてしまう。それでも、中身を変えると「何をやるのか」と市民からも注目が集まる。だからこそ、毎回新しいことを考え、「思いついたことはすぐやる」のが当たり前になっている。

継続することで失敗が怖くなくなるし、継続できるからこそ次を考えていけばいいのだという。

加えて、コストをかけないことも重要。金銭に余裕があるとイベント会社に頼りがちになるが、風船を配ったりふわふわドームを構えたりとありきたりになる。だからこそ、頭を回転させて生まれた知恵で楽しむという発想が大切になる。

「おまかせ主義も継続のコツ」と島田会長。任せる時はとことん任せることで、うまくいけば自信になるし任された人も育つ。同祭の企画運営も今や二代目が担うといった例も多いが、年長者から指示されず自分で考えフィードバックが受けられる点も面白い点といえる。

日本一が二つも誕生

そうしたアイディアの源泉はいかなるところから湧いてくるのか。

「コツさえつかめばいくらでも出てくる」と島田会長も自信げに答える。会合すると好き勝手にアイディアが出てくるし、それが尽きたこともないという。

例えば空き缶一つにしても、縦や横に積み上げるだけでなく投げたり蹴ったりと様々発想が出てくる。そうした身近なところからその時勢の話題まで、何から何まで利用することが源泉のひとつだ。発想の逆転も有効で、冬にスイカ割りを行ったことで好評を得たこともあった。

こうした発想で生まれた企画で日本一ネットにも「日本一長いライスシャワー」「日本一の電車ごっこ」の二つが登録されている。

「一番のコツは前例を蹴飛ばすこと」と島田会長。

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複合・転換型商店街への挑戦

本来の商店機能や各種イベントだけでなく、同商店街では出張商店街で大滝地区に出店したりおたすけ隊として買い物代行など生活支援も展開している。

同祭が200回超えたあたりから「みやのかわはナイトバザールしかできない」という声が上がっていた。そこから生活弱者のためのサービスを展開し、単なるモノを売るだけの商店街から価値を消費者の元へと運ぶ複合・転換型の商店街へと進化していった。

出張商店街では高齢者施設などに展開していたが、コロナ禍で施設販売ができなくなったものの「やめないでくれ」という声も根強い。

買い物に行きたくても行けない人たちの元へ行くと、とても嬉しそうな顔をして買い物をしてくれる。「こんなに買い物って楽しいのか」と各加盟店も感激を覚える。

「そういうところに行って商品売るのも商人の務めだし、儲かる儲からないよりも商人としての姿勢を」と島田会長。人件費を考えると赤字にはなるが、「売り手である自分は無料だからこそ、人件費は計算するな」と呼びかけているという。出張販売では赤字であっても、利用者と店舗が顔なじみになるからこそ、同商店街方面に来訪した際に店舗に立ち寄って利用する。だから、赤字も補填できる。

「人と人との繋がりを大切にするのは、商店街としての義務」と島田会長も力説する。

ECで商品を直接届けることも便利でいいが、商品を選ぶ楽しみは味わえない。店舗に行くことで様々な商品の中からお目当ての商品を選べる。こうした商行為そのものを提供することに意義があるのだ。

つづく

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