【埼事記 2023/3/12】10日ぶり救助のトルコ・シリア大地震 人間は決して弱くない

■「人間とは本来弱いものだ。だが、信念とか使命感で行動する時は、なぜか果てしなく強くなる」

総合スーパー・ダイエーを創業した中内㓛(1922〜2005)の言葉である。第二次世界大戦に召集された際には瀕死の重傷を受け死を覚悟したが、家族全員ですき焼きを食べる光景が浮かび「もう一回腹一杯すき焼きを食べたい」という思いのもと死線をくぐり抜けてきた。その後は日本へと戻り物質的な豊かさの追求へ向けて、主婦の店ダイエーを創業。価格破壊やプライベートブランド展開などを通じて消費者心理を掴み、一大流通チャネルを作り上げた。

そこまでに至ったのも、死を目前にしたときの思いが強く生きているといえよう。

■昨日3/11は東北6県はじめ東日本各地に甚大な被害をもたらした東日本大震災から12年の節目となる日だった。

常磐線が2020年に全線運行再開するなど復興へ向けた取組も着々となされてはいる。それでも同震災による津波による被害や起因する福島第一原子力発電所事故の影響は甚大で、同発電所周辺は帰還困難区域とされ住民60名が今だに帰還できていないでいる。今もなお2523人の行方が分かっておらず、復興への道筋もコロナなどを受けて先行き不透明だ。

一昨年くらいから徐々に規模の小さからぬ地震も増えてきており、東北のみならず各地で不安が生じつつある。

■さて、地震というと先月2/6にトルコ・シリアで発生した大地震が記憶に新しい。同日の日本時間10時17分頃にトルコ南央部を震源とするマグニチュード7.8の地震が発生。瓦礫の下敷きになるなど東日本大震災比2.5倍の5万人以上が命を落としている。依然として行方不明者も多く、日本からも救助部隊が送られるなどして懸命な捜索活動が続けられている。

甚大な被害がもたらされた同地震ではあるが、生命の維持に必要ないわゆる「72時間の壁」を超えて救助されたという事例も多く報じられている。発生10日後となる2/16には瓦礫の中から3名が248時間ぶり救助されたという。72時間3日を飛び越えて10日ぶりと、救助された本人たちにとってその期間はとにかく長く感じられたに違いない。しかも外部との接触を断たれおそらく栄養もろくに摂りづらかった状況からの救助である。本人たちの苦労や心細さはこの場に表現しがたいが、とにかくその生命力の強さや生命が織りなす奇跡についてはケチのつけようもないほど素晴らしいものであると言える。

■以前も小欄で書いたが、災害に対して確かに人間は弱い。津波が来れば飲み込まれてしまうし、原発でメルトダウンでも起きてしまえば放射能に対する免疫などないからたちまち倒れてしまうことだろう。こんな偉そうに述べている小生とて、いざそうなった時に生きながらえる自信など持ってやしない。

しかしながら、このような「弱い」というイメージを払拭してしぶとく生きながらえていくのも、また人間なのだ。3日間飲まず食わずとされたのに、五体満足で救助された人もいた。知る由もないのだが、中内の言葉を借りるに信念や使命感があったからこそ生きながらえたものだと思う。

「なんとしても生きていく」「こんなところで死んでたまるか」

こうした思いが、彼らを生きながらえらさせたことに繋がっていると、小生は勝手に思っている。

■人間は単体で空を飛ぶことも時を越えることもできるわけではないし、物理的にできることは限られている。

それでも、他の生物と違って自ら考え行動に起こすだけの知性というものがある。「死んでたまるか」と思ったからこそそれに見合った行動をしていたのだろうし、身体もそれに応えていたのであろう。

そう考えると、人間というのも案外しぶとい存在で決して弱くはないのだなと感じる。毒蛇やライオンを前にすれば物理的にやられるのであろうが、彼らにはない知性があるからこそブルドーザーを生み出したり血清などで治癒もできる。「求めよさらば与えられん」ではないが、そのように外敵に立ち向かいたいと思うことで多くの人が合流してその対策を考える。これは他の生物には見受けられない人間独自の強みだろう。

■自然界において人間が上位だと言うつもりはない。それ単体では弱く、頂点にはなれないと思うからだ。

しかし、知性ゆえの過去の知見を用いての技術力は、人間こそのものである。その裏には人間同士での協力が不可欠なことは言うまでもなく、多くの人々が協力しあってこそそうした技術が生まれているのだ。一緒に研究する人、実験の場を提供する人、周りに理解を求める人、各人がそれぞれも役割を果たしている。もっというとリーダーシップや相互理解があってこうした人間組織が出来上がるのだが、こうしたことを考えるに決して人間も無力ではないのだ。

■「強さとは、身体能力ではなく、不屈の精神から生まれるものだ」

インド独立を担ったマハトマ・ガンディー(1869〜1948)の言葉だ。

根性論を言うつもりはないが、とにかく意思を強く持ち他者を巻き込めればだいたいの困難は乗り越えられるのだ。

共に考え共に理解し合う人間だからこそ、この芸当が通じうる。あとはその恩恵を自分たちのものとせず、これまでの環境を維持しより発展させるために使うまでだ。

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