【埼事記 2021/1/17】〇〇すごい番組の不思議ー地域は好評価で日本は否定

■インターネットの普及に伴い、テレビ離れが叫ばれて久しい。特に30代以下の若年層において2018年の平日テレビ利用時間は2014年のそれに比べて2割近く減少しているという。

各テレビ局とも視聴率確保にしのぎを削る状況であるが、それでもテレビへの広告費は約2兆円規模となっている。SNSではテレビ番組を見ながら発言している投稿も見られ、依然として現代社会においても影響力あるメディアであることが伺える。

■報道やドラマやバラエティと日々様々な番組が放送される中、全国区のキー局で特定の地域を紹介する番組が放送されることがある。先週も埼玉地域をテーマにした番組が放送されたが、SNS上ではいつも行っている場所が紹介されたなどといった投稿が多く見られた。

小生もその一端であったが、普段親しんでいる地域の一側面が全国区のテレビで紹介されることは素直にうれしい。

先週の番組に限らず、全国区でこのような特定地域を紹介する番組が放送されると、その地域の住民の間で大きな反響や期待が生まれる。

■ただ、同じような構造をとっているにも関わらず必ずしも歓迎されない番組もある。いわゆる「日本すごい番組」だ。

大体の場合は着物や武道などの日本文化を外国人が体感して、素晴らしいなどと評する。特定の地域の魅力を地域内外の出演者が体感する番組と対象は異なれど、構造的にそう違いは見られない。

それにも関わらず、同様の番組が放送されると「またか」「やらせ」「プロパガンダ」などと否定的な反応ばかり見られる。

■なぜ対象が異なるだけで反応が180度変わるのか。

まず一つに「日本すごい番組」が増えすぎていることがあろう。

東京五輪の開催が決定し「クール・ジャパン」が提唱されてきた頃から、この手の番組が増えてきた。中にはレギュラー放送されているものもあるが、局を問わず単発で放送されるものもある。

局からすると視聴率が取れるだけにそのような番組を放送するのだろう。しかし、視聴者から見れば「またか」といった心境である。だから、否定的反応に繋がっていると解釈できる。

■地域と日本という対象を比べると、視聴者にとって同番組で扱う事物に馴染みが少ないというのも理由の一つだろう。

同番組では着物や武道などの和文化、コンビニや新幹線など日本社会に特徴的な事物などを紹介する。コンビニや新幹線はまだ馴染みがあろう。それでも洋風化が進み多くの伝統産業が苦境に喘ぐ昨今では、着物や武道などの和文化にどれだけの人々が触れていようか。

人間は自分の知らないものに対して警戒や嫌悪感を抱く傾向にある。それゆえ得体の知らない和文化を外国人が賞賛しているのを見ると、「なんだこれは」と否定的評価につながるのだと解釈できる。

■そして最大の理由として考えられるのがナショナリズム、もっというと政治参加への嫌悪だろう。

自民党の政権奪還以降日本社会においては右傾化が進んでいるとされる。それでも地方・国政選挙において投票率の低下が深刻化しており、政治の国民不在が問題視されている。「人前で政治の話はするな」というのが古くからの日本人の信条であり、とりわけ芸能人が政治について語ると炎上にもなるのがその最たる例だ。

ナショナリズムとは国家または民族の統一・独立・発展を推し進めることを強調する主義・運動と解釈され、国家主義とも言われる。その遂行にあたっては国民の政治参加が重要な鍵となるのだが、投票率の低下を見るに日本においてナショナリズムは低いと言わざるを得ない。中国や韓国など周辺諸国と対立が顕在化すると高揚することもあるが、平時はそう高くはなさそうだ。

ここまでナショナリズムが低くなった理由は様々あろう。天皇を第一とした大日本帝国の敗戦が反面教師となっていること、連合国主導で戦後復興が進められ国家主権の存在を意識しづらかったこと、貧富の差が拡大していること、そもそも国家とはナショナリズムとは何か難しいこと。

そのような中で同番組が放送されると、ただでさえ低く得体の知れないナショナリズムを煽るように見られる。そういった背景があるのかもしれない。

■金太郎飴のような乱発は好ましいものではないが、和文化や日本社会を紹介しそこに携わる人々にスポットライトをあてるという点で、そのような番組は必ずしも悪ではない。それでも地域を題材にした番組に比べるとここまで異なる評価を受けているのはいささか疑問ではあった。小生なりの分析ではあるが、その背景にあるものを洗い出せて思考がすっきりした。

それにしても、ナショナリズムの低さが日本すごい番組の批判に繋がるとしたら、地域すごい番組の好評価の裏にはその地域に対する愛着や想い入れがあるということなのか。ただでさえ県民愛着度が低いとされる埼玉にとって、それはそれで好ましいことなのかもしれない。

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