【埼事記 2022/11/13】「死刑はんこ」発言渦中 法務大臣へのエール

■「永世死刑執行人 鳩山法相。『自信と責任』に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。またの名、死に神」

2008年6月18日に掲載された朝日新聞夕刊のコラム・素粒子に書かれた一節だ。

当時の鳩山邦男法務大臣は前日6月17日に3件の死刑執行を指示していた。その様を「死に神」と評したが、同氏はじめ各方面から非難が集中。

兄で野党・民主党に籍を置いていた鳩山由紀夫元首相も、「弟は法に従っただけ」と同情の声を寄せている。

■15年近くが経った今、ある人物の発言が物議を醸した。今は前になってしまったが、葉梨康弘前法務大臣だ。11月9日の政治資金パーティで「法務大臣というのは、朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」と発言、各方面で物議を呼んだ。

各報道を受けて支持率低迷に頭を悩ます岸田文雄首相も、当初更迭までは検討していないようだった。

しかし、翌々日の11日に同氏を更迭。後任に、埼玉県副知事を務めた齋藤健氏を充てた。

■安倍元首相銃撃で渦中の統一教会についての言及の後、同氏発言はこう続く。

「外務省と法務省は票とお金に縁がない。外務副大臣になっても、全然お金がもうからない。法相になってもお金は集まらない」

大臣職とカネを結びつけるのはいかがなものかと思うし、政治資金パーティーという公の場だからこそTPOを弁えるべきではあった。

法務大臣というと閣僚名簿では首相・副総理・総務大臣に次ぐ要職だ。死刑執行命令を発令をはじめ国を当事者・参加人とする訴訟に関しては代表人として参加するのが主な仕事となっている。検察庁や出入国在留管理庁を管轄するのも大切な仕事だ。中央省庁再編前から存在し、内閣にとっては欠かせない。

しかし、法務大臣という要職がなかなかに報われづらいこともまた事実なのだ。

■意外なことに戦後に同職を経験し首相になった者はいない。戦前には山縣有朋や清浦奎吾のような首相経験者が務めていたことがあったが、不思議なことに戦後にはいないのだ。

また、その立ち位置ゆえか首相や他の大臣が代行・兼任するという事例も少なからずある。臨時代行というケースが多く長期的なものではないものの、いつか取って代わられるかもしれない危機感があるのかもしれない。

立ち位置も微妙に感じる。言うまでもなく立法機関は国会であるし、司法の番人たる最高裁判所長官を指名するのは内閣だ。司法に則って業務を行うことが求められるが、その司法を必ずしも司ることができない。

一方で、死刑執行という人の命を奪う命令を業務として行うのであるから、その精神的負担は計り知れない。

言葉を選ぶべきであったが、以上の事情を鑑みるに同氏発言へ一抹の同情を感じざるを得ないのだ。

■ところで、明日に県民の日を迎えるおらが里・埼玉県からも首相経験者が出ていない。北に群馬・南に東京という首相輩出地域に囲まれながらにも関わらずだ。150年以上前は武蔵国として江戸と一体であったが、ずいぶん長いところトップの座と縁がないようだ。

だからこそ、首相経験者が出づらい法務大臣職と重なるところはある。

なんにしても、地味であっても日々業務をこなして信頼に足る人物になるのが一番だ。結局のところ信頼がなければトップになど立てないし、そのための一丁目一番地はとにかく地味であっても自分のなすべきことをこなしていくことだ。

■物議はあったものの、今まで気苦労の絶えなかった葉梨氏やバトンを受け継いだ齋藤氏など法相経験者、そしておらが里からトップを目指す人々にエールを送りたい。

報われづらいことはあっても、進んでいけばいつか風穴は空く。信頼獲得へ進み続けるだけだ。

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