【埼事記 2021/1/21】コロナで罪人とはー特措法・感染症法罰則規定適用への嘆き

■「Arbeit macht frei(働けば自由になる)」

第二次世界大戦時のナチスドイツでは、ユダヤ人絶滅政策(ホロコースト)が進められた。胸にダビデの星をつけた域内のユダヤ人は収容所へ次々と連行され、ある者には死またある者には重労働が課された。

どの収容所にも冒頭の言葉がスローガンとして掲げられ、門のアーチにも刻まれた。ユダヤ人に生まれたというだけで日々酷い仕打ちを受けた被収容者は、せめてもの報復としてアーチに刻まれた同語の一字を逆にしたとも言われている。

■70年以上が経った今、世界各地で未曾有のウイルスが人々を不安や絶望に陥れている。

新型コロナウイルスが本格的に流行して早1年が経過した。低温で免疫が落ちる冬ということもあり、日々陽性反応者が最多を更新する状況が続いている。渡航制限下でも英国由来の変異種への感染が国内で報告されるなど、事態は一層混迷を極めている。

■そのような中で通常国会が始まったが、止まらぬ感染に与党は昨年3月成立・公布の新型コロナウイルス特別措置法(以下特措法)および感染症法の改正を提案。政府はこの改正案を明日にも閣議決定し国会へ提出する予定だ。

この改正案が物議を醸している。特措法改正案では緊急事態宣言の前段階として都道府県知事が飲食店などの事業者に営業時間の短縮や休業を要請・命令できるとした。しかしこの命令を拒否した場合に30万円以下、緊急事態宣言下では50万円以下の罰金を課すとした。命令前の立ち入り検査への拒否にも20万円以下の罰金が課される。感染症法改正案では重症者や宿泊自宅療養を拒否した感染者に入院勧告を行うが、これを拒否したり入院先から抜け出したりした場合に1年以下の懲役か100万円以下の罰金を課すとしている。

同改正案が報じられると、日本医学会連合や日本公衆衛生学会などが倫理的に受け入れがたいと反対する声明を出している。

■小生としてもこの改正案には嘆きや悲しみを感じずにいられない。

入院先からの脱走で懲役になるなど、今までにありえたか。当然社会的には好ましくないことではあるが、これが結核やノロウイルスなどの病気であったらお咎めなしだろう。

誰だって好きで意図的に感染するわけではない。気づいたら感染していたということがほとんどだ。病院だって同じ患者が多いしクラスターの危険もあり必ずしも療養できる場ではなく窮屈に感じることもあろう。

入院先からの脱走を決して歓迎するものではないが、コロナでの脱走というだけで犯罪になる。何の抵抗も許されない。この悲しみをなんと表現すればいいか。

■特措法もそうだ。

同法では命令や立入検査に従わない飲食店を罰金対象としている。食中毒を出しても大抵の場合は営業停止だが、罰金というのは横暴すぎやしないか。

不特定多数が集まる飲食店がクラスターの温床になっている可能性もあるが、人が集まらないと商売が成り立たないのはどの業種でも言える。全業種に課せとは到底思わないが、地域で頑張る飲食店をここまで目の敵にするのは腹の虫が収まらない。

■何より、こうした罰則規定が適用されることでコロナに感染することが悪と捉えられる風潮が加速しかねないのが一番の不安だ。

日本医学会連合も声明内で述べていたが、感染者への偏見を防ぐ対策を講じず罰則規定を課すのは倫理的にも受け入れがたい。むしろ偏見を助長させる者こそ取り締まるべきではないのか。

「埼玉コロナマン」のようにいわれのない誹謗中傷の元で社会的に悪の烙印を押され、泣き寝入りする感染者が増えてしまいかねない。そんなことがあっていいのか。

■とかく人間は臭いものに蓋をしたがる。だから感染者に隔離規定もあるしクラスターが発生しかねない場所を閉じようとするのだ。

感染対策はもちろん大切だが、そうやって感染者・非感染者、命令に従う・従わないと二元論で捉えるようになれば当然偏見や差別につながる。それがいつしか、冒頭に述べたようなホロコーストのようなものに発展する可能性もある。

それだけこのウイルスというのは強烈なものなのかもしれない。そのような中で人が人に冷たくなって何が解決するというのか。

■冷たさや悲しさではなく、温かさや楽しさ。これらを以ってウイルスに立ち向かうことはできないのか。不安が不安を生み、そして悲しみにつながる。ユダヤ人への畏怖から生まれたホロコーストもそのようにして悲劇となった。

悲しみの連鎖はいらない、いつかみんなで笑い合える日のために。

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