【埼事記 2023/4/12】県議選・さいたま市議選総評 本当に「国政政党有利」か

■「自分の主義を守るために政党を変わる者がいる。自分の政党を守るために、主義を変える者もいる」

第二次世界大戦期に英国の首相を務めたウィンストン・チャーチル(1874〜1965)の言葉だ。

「鉄のカーテン」という言葉を初めて使ったことでも知られるが、保守党議員からはじまり自由党に鞍替え、再度保守党に転向している。チャーチルの場合は自分の主義を守るために政党を変えていたが、そんな彼らしい言葉とも言える。

■日曜に投稿することが多い小欄も今日出さずにはいられなかった。

去る4/9(日)に統一地方選挙前半戦となる埼玉県議会議員選挙及びさいたま市議会議員選挙の投開票がなされた。前者においては与党を占める自民の議席維持、後者においては市長に近しい会派とそうでない会派のせめぎ合いや地域政党の参入などが注目点となった。他紙で報じられている通り、低水準に沈む両者の投票率の行方も注目点だった。

結果について詳しくは語らないが、県議選については自民が議席をやや伸ばし基盤の強さを示した。公明も議席を保った一方、共産は議席を半減させた。立憲はというと、選挙前より議席が倍近く伸びている。

市議選では自民・立憲・共産が議席をやや減らしたが、社民が1議席を獲得した。

そして両選において、「台風の目」たる維新が躍進。県議選で1議席、市議選で4議席をも獲得し、全国政党化へいよいよもってして本領を発揮してきた。

■自民・公明は現職の当選が多く、今までの政治実績が買われた結果となった。基盤は盤石なようだが、日々状況が変わる中で油断は禁物だ。

立憲は新人の当選も多く、女性候補の当選も目立った。子育て支援や福祉政策など現役の女性層の支持を集めたようで、国政では振るわずとも市民に寄り添った政党として評価されたようだ。

共産はいずれも議席が減っており、特に県議選では半減。やはり支持層の高齢化が影響したか。それでも両選とも女性議員の割合が高いことが収穫で、今後は女性層の取り込みが課題。

そして維新はというと、これは本物のようだ。若くして当選を勝ち取った候補者もおり、現役層からの支持も高いと見える。国政においても立憲との連携が取りざたされるが、共産が議席減でれいわが議席を獲得できなかったことから見るに、他党と歩み寄りを見せないことで「広がりがない」と思われている可能性はある。この点でも明暗が分かれたといえよう。

■両選挙には無所属や諸派で出馬したものも多くいたが、国政政党公認候補が多く当選している状況から「国政政党有利」という声も出ている。

たしかに県議選においては93議席中16議席、市議選においては60議席中6議席で、国政政党有利に見える。諸派についても、県議選では「無所属」の2候補がいずれも落選、市議選では同選に合わせて結成されたさいたま未来が振るわず議席を半減させた。

しかし、無所属についてはいずれも選挙前より増えている。県議選では12議席から16議席、市議選では4議席から6議席とたしかに増えているのだ。割合でいえば「国政政党有利」ではあるが、必ずしもそうとは言えないのではないだろうか。

■手前味噌にはなるが、弊紙でも世論調査を行った。地域からの信頼度の表れか有効票は17票に留まり世論をそのまま表しているとは言い難いが、「候補者を選ぶポイント」の質問で「所属政党」は最多ではなかった。最多の「公約」や「地域での影響度」「政治におけるこれまでの実績」、「所属政党」と同数だった「人柄」といった要素が挙がっている。

県議選で当選した無所属議員は現職であったり新人であっても市町村議会議員を務めた経験がある者が多くいた。これらは「政治におけるこれまでの実績」が強く評価されたものと見える。市議選で当選した無所属議員も現職だけでなく、選挙区である地域で長く活動してその課題を強く認識し訴えていた新人もいた。政治経験がない新人であっても「地域での影響度」や「公約」「人柄」が評価されたものと見える。

■然るに、無所属議員の場合は地域における強烈な個性を示せたかが勝負の分かれ目だったと見える。他者にない個性や有権者の利益を第一に行ってきた各種活動を訴求し、有権者の心を掴んでいたといえよう。

諸派についても、地域の実情に即した政策立案は尤もではあるが、橋下徹氏らのもと大阪の地域政党から始まった維新や山本太郎氏が創始したれいわの成長を見るに、強力なリーダーシップがないとアピールが難しそうだ。

何れにしても、パッとで出ではなく数年数十年先の選挙戦を見据えて地道に活動し、地域の有権者にその存在を熟知してもらわねば、「国政政党」という鎧や「政治実績」という槍は攻略できまい。難しいかもしれないが、決して不可能ではない。それだけの作戦が練られたか、実行力があったかが全てだ。

■再来週には統一地方選挙後半戦、8月には知事選も控える中、女性議員の増加などこれまでとは様相を変えた選挙戦になったと感じる。今後各議会で政党の離党入党もなされることだろうが、まだまだ予断を許さない議会状況は続く。

低空飛行に終わった投票率も課題だが、何れにしてもこれで各議会の新たな顔ぶれが決まった。地域に寄り添った行政運営に向けて各種活動に励んで欲しいと切に願う。

弊紙としても今後とも地域における報道機関として議会・行政を監視するとともに、地域の利益増進へ向けてその動向を的確かつ公正中立に報じていく所存だ。

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