【埼事記 2021/6/19】要求・動機不在の不気味さー大宮立てこもり事件に思う

■「みんなと一緒に遊びたい」

219時間に及ぶ立てこもり事件の人質だった女性は、事件後の記者会見で現在の心境をそのように語った。

約9日間の孤独な拘束直後で気が収まらない中での発言だったが、発言が一人歩きしてセンセーショナルなものとして捉えられ、女性の元には誹謗中傷が多く寄せられたという。

■その事件というのは、1972年2月19日に起きたあさま山荘事件だ。

冷戦真っ只中・学園紛争末期の70年代初頭、共産主義の旗の元に武力革命を提唱した新左翼連合赤軍派が警察の追手が迫る中で軽井沢の浅間山荘に籠城。管理人の妻を人質に、警察隊と銃撃戦を繰り広げた。

具体的な要求をしない中、「警察官に降伏しない」「1日でも長く抗戦を続けることに意義がある」を信条に籠城を続けた。

極寒の軽井沢で弾丸を避けつつ警官隊も一派の説得にあたるも膠着が続いたが、9日目を迎えた同月28日にクレーンに吊り下げた鉄球で同山荘を破壊し機動隊が突入。犯行一派は全員逮捕され人質となった女性も無事救出された。

■同事件から50年が経とうとしている今日、大宮で立てこもり事件が発生した。

大宮駅西口のインターネットカフェにおいて、6/16午後より来店客の男性が店員の女性を個室ブースに呼び寄せて籠城。

埼玉県警の長時間に渡る説得の末、24時間以上が経過した昨日6/17午後11時前に犯人男性の身柄が確保された。ちょうど小欄を書いている最中に犯人男性確保の一報が飛んできたが、人質となった店員女性は無事という。

■大宮の事件でもやはり犯人男性からの要求がなく、それが事態をよりややこしくさせた。

要求があれば良いというものではないが、それがわからない以上解決への糸口が一向に見えてこない。

犯人もだんまりを続けていただけに、何をしでかすかわかったものではなかった。鍵が開かず防音の密室だけに中の様子を伺い知るのも難しく、凶器を持っているのですら見えてこない。

さながら「我慢比べ」の様相だった。

■要求が見えないということは、立てこもりに至った動機も見えてこない。

日本で起きている人質立てこもり事件を「犯罪失敗型」「情緒型」「計画型」に分類する研究もあるようだが、今回の場合はいずれにあたるのか。

入店後しばらく経ってから人質女性を呼び寄せて立てこもっただけに、行き当たりばったりで犯行に至った可能性もある。いずれにしても犯人男性の人物像がイマイチ見えてこない。

犯人男性の身柄は確保されるも、このような不気味さが依然として渦巻いている。

■とはいえ、まずは人質となった女性の無事に安堵したい。

あさま山荘事件でもそうだったが、閉ざされた空間への長時間の立てこもりで人質も犯人も孤独を感じる。いくら「我慢比べ」をしたところで、孤独というものはいつしか人の心を蝕む。

いつ解放されるか・何をされるかわからない不安も相まって、人質女性の心労は相当なものであっただろう。まずはじっくり身を休みていただければと思うばかりだ。

そして犯人確保・人質保護へ長時間粘った捜査関係者にも、労いの声をかけずにはいられない。

■人質女性をはじめ地域を不安たらしめた今回の犯行も決して許されたものではなく、犯人男性にもそれ相応の罰が与えられてしかるべきである。

今後の取り調べで犯人から犯行に至った動機が語られることだろう。

何の要求もせずだんまりと立てこもり続けた犯人男性の心理とは、いかなるものであったのか。孤独や疲労に苛まれながらも、何を目指して「我慢比べ」を続けていたのか。

そして、それが我々市民や地域社会に示そうとしているものは一体何なのか。

不気味さが地域を覆い尽くす中で、今後の捜査が待たれる。

スポンサーリンク

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事