【埼事記 2021/10/30】老朽化する社会インフラから見える「新しい資本主義」

■「資本主義の欠点は、幸運を不平等に分配してしまうことだ。社会主義の長所は、不幸を平等に分配することだ」

第二次世界大戦、それに続く冷戦初期にイギリス首相を務めたウィンストン・チャーチル(1874〜1965)は、このような言葉を残している。

いわゆる「鉄のカーテン」を提唱したのもチャーチルだが、冷戦初期においてイギリスという西側諸国にいたからこそ社会主義を標榜する東側陣営との差異に敏感になっていたのかもしれない。

■冷戦終結から30年近くが経過したが、大宮駅周辺ではグランドセントラルステーション構想もあってか再開発への動きが近年活発化している。その中で、約50年にわたって地域に君臨し続けた社会インフラもその姿を変えつつある。

旧大宮区役所と氷川参道二の鳥居近くにあった旧大宮図書館は、2019年春に南側の吉敷町に移転して一体の施設となった。その旧図書館はリノベーションされ、12月よりBibliという地域発信・オフィススペースとして蘇る。市民会館おおみやも駅近くにできる複合施設「大宮門街」へ来年移設される。大宮駅そのものですら改修構想が上がっているくらいだ。

時期は未定だが、築年数約半世紀となるさいたま市役所もさいたま新都心に移転する話が上がっている。築60年超の埼玉県庁も建替が取りざたされる。

■連合国の占領および日米協定のもと我が国は戦後の冷戦期に急速な発展を遂げてきた。「西側か東側か」という括りで言えば社会主義・共産主義を標榜する東側よりも、自由主義・資本主義を標榜する西側についていたといえる。

しかし、我が国は「成功した社会主義国」と矛盾した評価を受けることがある。確かに株式会社はあるし証券取引所も存在するなど資本主義の要素を多分に孕んでいる一方、国民皆年金に代表されるように行政主導の社会保障が充実している。本来の資本主義であれば解雇も積極的に行われ労働市場が流動化するが、法制度面で手厳しい解雇制限もなされている。鉄道や通信なども行政主導だった。

そのような中で、福祉向上と経済発展に向けて行政主導で社会インフラが整備されていった。先述した施設たちもこうした流れで生まれていった。

■しかし、冷戦終結・バブル崩壊から30年が経過した昨今はどうだろうか。

急速に進行する少子高齢化で国民皆年金はもはや風前の灯火となっている。不況による雇用抑制で非正規雇用が増えた結果、日々雇い止めに遭う人々がいる。鉄道も通信も民営化してしまった。

そして、行政主導で整備された社会インフラもその存在意義が問われるようになってきている。少子高齢化で利用者が少なくなっていることもあるが、何より社会のあり方が大きく変わってきている。

従来であれば家庭の大黒柱たる男性は平日は都内に仕事へ出て休日は地元で過ごす、女性は家庭を守り公民館などの集会場で井戸端会議、子どもたちは学校に通い放課後は公園で遊ぶという様相が当たり前だった。

■しかし、女性の社会進出や急速な少子高齢化・IT化・格差拡大の進行、加えて昨今のコロナ禍で社会のあり方も大きく変わった。

男性も女性も「起きればすぐパソコンを点けて仕事」が当たり前になっているし、高齢化で遠出が難しい高齢者が増えている。そうなると今までは自宅から職場まであった生活圏内も小学校の学区程度に縮まってくる。

そしてITツールの発展により、なんでもスマホやパソコンさえあれば揃ってしまう。本が読みたければ電子書籍を読めばいいし、映画や演劇が見たければ動画を見ればいい。

そうなると、老朽化が進み利用者の利便に必ずしも合致しなくなっている社会インフラはその存在意義を問われる。

■一方で格差の拡大や環境問題の深刻化などにより、営利の追求を美徳とする資本主義に疑念の声が上がりつつある。

確かに資本主義に異を唱えた東側諸国は一定の存在感を示していた。それでもチェルノブイリ原発事故に代表されるように、様々な歪みから立ちいかなくなった。その系譜を受け継ぎアメリカにも対抗意識を示す中国においても、アリババやテンセントといった企業が躍進しているように資本主義が席巻している。

結局のところ、資本主義という仕組み自体は今後も残ることが考えられる。

■衆院選真っ只中であるが、今月就任した岸田文雄首相は所信表明演説で「新しい資本主義」を謳い、プロジェクトチームも立ち上げている。しかしその中身というのは不明瞭なままだ。

社会インフラの老朽化が顕著となりその存在意義が問われている状況で、今までの日本型資本主義はこれからも通用するか。

Society5.0という時代が到来しているからこそそれに合った社会を造ることが急務であるし、資本主義もそれに対応させないといけない。

■その中で鍵となるのはデジタルだろう。

菅前政権でデジタル庁が発足したが、とかく我が国はデジタル分野では諸外国に比べて遅れをとっている。フリーWiFiが少ない、キャッシュレスが進んでいないなどはその典型だ。

スマホとパソコンさえあればデジタルコンテンツにアクセスできるわけで、例えば、文化財や市民芸術のアーカイブ化や舞台芸術のライブ放送の推進を行えば、場所を問わず利用できるし施設も少なくて済む。

無論デジタルデバイドという格差を助長する懸念はあるが、デジタルの力で格差を是正しつつ市民の福祉を向上させ経済成長への基盤を築く。資本主義という社会におけるOSのアップデートに、待ったは許されない。

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