【埼事記 2023/1/22】「異次元」の増税議論 メリット踏まえ検討を

■「あらゆる借金の中で人々は税金を一番払いたがらない。これは政府に対するなんという諷刺であろうか」

19世紀に超越主義を唱えた米国の哲学者ラルフ・ワルド・エマーソン(1803〜1882)の言葉である。

江戸時代の日本においても税や年貢の取り立ては大きかったが、この感情はどの国においてもどの時間軸においても同じということなのだろう。

■年が明けてから「異次元」の議論が巻き起こっている。

深刻な少子化を踏まえて年頭の記者会見で岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を発表。子ども関連の予算を増額し児童手当の拡充や産後ケアの支援拡大などに充てる見込だが、数兆円規模となるこの財源に消費税を充てるという話が出た。2014年に8%、2019年に食料品を除いて10%へ増税となった同税について、さらなる増税が行われるのではないかと市井では危惧の声が上がっている。

昨年末には防衛費増額に向けて、所得税や法人税やたばこ税を増税する案が与党の税制調査会で了承。

いよいよもってして禁断の増税に踏み込む姿勢を宰相が見せている。

■法人税や所得税もさることながら、内需主導型の経済だけに消費税増額は慎重な判断が求められる。

生活必需品に一律に課税されてしまうため、こと拡大傾向にある生活困窮者にとっては深刻な問題となる。可処分所得が減らされさらなる困窮に追い込まれ、金銭的にも精神的にも疲弊することになりかねない。

社会の維持のために少子化対策に力を入れるのはもっともである。しかし、生活コストも上がってしまえば結局事態は変わらないということになりやしないだろうか。

■逆にこういうことはどうだろう。

消費税は25%とする。とても高い気はするが、その代わり年金の支給年齢を25年早める、NHKの受信料を撤廃する、全国民の医療費を無料にする、全国民に毎月給付金を支給する・・・。

同税が20%以上の国も欧米では珍しくないが、そういう国々については上記のような恩恵を受けられるところもある。こう聞くだけで、メリットも感じやすいのではないだろうか。

■つまるところ、目に見えてわかりやすいメリットがないと市民にとって増税というのは受け入れ難いのである。

子ども手当も今までに少なからず実施されたこともあったし、高校授業料の無償化もなされた。それでも少子化に歯止めがかからないし、同対策を行なったとしてもメリットとして感じづらいところがあるように思われる。

逆に、思い切ってわかりやすく即時的で全ての市民に恩恵があるようなメリットを打ち出せないものなのだろうか。年金の支給年齢について書いたが、今のままではさらなる先延ばしもされそうだ。それでいて増税をする・支給金額を減らすというのだから、これほどおかしな話はない。なんで現状よりも悪化、良くて現状維持をさせようとして、改善という視点が抜け落ちているのか。これが市民のためになっているのか。理解に苦しむ。

■増税をするにしてもしないにしても、社会に存在するカネの量、マクロ経済学で言うところのマネタリーベースは変わらない。公定歩合操作のように、増税というのも社会に出回るカネの量の調整という意味合いもある。

しかし、これだけで物価高も深刻になっている中で、出回るカネの量を減らすのもいかがなものなのか。カネが行き渡るべきところに行き渡らないから、皆苦しんでいるのだ。

所得の再分配というのも増税における大きな意義と言える。やるからには明確なメリットを打ち出して所得の再分配を着実にこなしていく体制を準備し、市民の理解を得るべきだ。

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