【埼事記 2020/12/11】ホンダが都市対抗野球優勝 オール埼玉で掴んだ栄冠

■「企業城下町」という言葉をあまり使わなくなってきている。

こと家電や自動車など製造業においては顕著であるが、我が国では各地に企業が製造・営業拠点を設けそれが元で地域が発展するということが珍しくなかった。そうして発展した地域に愛知県豊田市や茨城県日立市などがある。こうした地域では企業の従業員やその家族向けのサービスが発展し、その企業含め発展する地域産業による法人税収で地域が発展するという様相が多く見られた。

しかしグローバル化により販売・製造コスト面で製造拠点の海外シフトが進む中、衰退する企業城下町も今では珍しくなくなった。そしてこのコロナ禍で多くの企業が減収減益となっている中、それを取り巻く企業城下町の状況も一層厳しくなっているのかもしれない。

■埼玉県内においても、コロナ禍でいまいちパッとしない状況が続く。

そんな中で狭山市に拠点を置く社会人野球チームが偉業を成し遂げた。同市を拠点に活動する本田技研工業(ホンダ)硬式野球部が第90回都市対抗野球大会で決勝に進出、先週12/4にNTT東日本を4-1で破り11年目3回目の黒獅子旗を手にしたのだ。

コロナ禍で観客も少なく、何より練習にも制約があった中でこの偉業である。あっぱれと言わずに何と言おうか。

■プロ化しているチームにも当然言えることではあるが、社会人野球のような企業の実業団チームはオーナー企業の懐に常に左右される。リーマンショック以降多くの実業団チームがオーナー企業の不振で廃止・活動縮小を余儀なくされたりしたのは記憶に新しい。

ホンダも例外ではなく、コロナ禍による需要減の影響で今年度第2四半期累計は前年度同期比25%の減収、黒字とはいえ純利益は同6割近く減益となっている。

大会ゆえどこかが必ず優勝するものだと言われればそうなのかもしれない。そのような中でも長野久義選手らを輩出した伝統の野球部を切り捨てずアマチュア野球トップの座に押し上げたのは、賞賛を送らずにはいられない。

■ホンダといえば狭山に限らず埼玉全体と深い関わりがあるのも印象深い。

和光市には同社が製造・販売面で拠点としている和光ビルがあったり、同社の研究開発の根幹を成す本田技術研究所も同市に本部がある。また狭山市と寄居町にも完成車工場があり、小川町にもエンジン工場があったりと製造拠点も県内の至る所にある。

極め付けは今年10/31に開業した東武東上線の新駅・みなみ寄居駅だ。老朽化が顕著な狭山市の完成車工場を閉鎖して寄居町のそれを強化するというが、そのアクセス駅として設けられた。設立には同社が建設費用を全額負担しており、副駅名も「ホンダ寄居前」と同社名がつけられている。

他にも埼玉県に対してコロナ患者輸送用の車を貸し出すなど、地域との関わりは極めて強い一社と言える。

■そんな同社硬式野球部が黒獅子旗という栄冠を手にした。これはオール埼玉でつかんだ栄冠といっても過言ではないだろう。

埼玉西武ライオンズも3連覇や日本シリーズ進出を逃し、夏の甲子園すらも正式に開催されなかった。サッカーも浦和レディースが優勝したものの、J1浦和とJ2大宮がいずれも優勝を逃し、県内スポーツにはいまいち活気がなかった。

そんな中でも地域の工場や営業拠点で汗を流す一般市民たる選手の奮闘が、この栄冠を手繰り寄せた。埼玉という地域と共にありその地域で活躍する市民がつかんだ栄冠といって差し支えなかろう。

■営利団体である以上、企業の使命とは自社の利益確保であることに疑いはない。

同時に企業は各地域や社会における一員でもあり、その中でどう振る舞うかということも大切になってくる。必ずしもそれが利益に直結はし得ないが、潜在顧客を掴んだり宣伝になったり時に新サービス・製品の開発につながったりと、自社以外のプレイヤーを巻き込むことは多様な視点を与えるという点でメリットになりうる。

製造・営業面で大いに関わりがある地域の代表として闘いこの栄冠をつかんだこと、コロナ禍において改めて我々市民はその偉大さや誇りを自覚できたと感じる。

■さいたま市を拠点とし残念ながら同大会初戦敗退となった日本通運野球部含め、改めて同大会やその予選に出場した各地のチームに感謝とエールを贈りたい。コロナ禍の中でも、あなた方の活躍が地域にとって大きな灯となっていた。そのことに感謝したい。

そしてホンダ硬式野球部へ、おめでとう。

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