【埼事記 2021/9/23】オガワスタジオの業務終了 経営は挑戦の連続也

■「かつては10年ひと昔といったが、今は1年ひと昔。10年先のことを考えるなんて昔で言えば100年先を考えるようなもの。会社のあるべき姿を描くと現実から大きくかい離する。最小限、何を今なすべきかを考えていくことだ」

今年6月に自動車大手スズキの会長職を退任した鈴木修氏が、このような言葉を残している。

昨今のコロナ禍にAIやIoTなどの発展と、現代社会においては森羅万象が日々急速に変化している。今の当たり前が1年後には非常識、10年後には骨董品になりうる。長期的なビジョンを描くことも大切であるが、今この時をどう切り抜けるかー「中小企業のおやじ」を標榜してきた同氏は訴える。

■テレビや雑誌などでも取り上げてきた地域の中小企業が、惜しまれつつも業務を終了する。

政治家やキャラクターなどのラバーマスクの製造・販売を手掛けてきたオガワスタジオ(大宮区堀の内、田中尚生社長)が、年内をもって同製品の製造・販売を終了すると発表した。

約115年の歴史を有し、10名程度の従業員でデザインから販売まで手がけてきた。しかしコロナ禍で同製品が使用される宴会やイベント需要が大幅減少。最盛期の半分の減収に見舞われた。以降は別会社に吸収合併される見込みという。

■宴会向けのラバーマスクというニッチな市場において、ユニークな製品開発を実施し地域に活力を与えてきた中小企業たる同社の業務終了は残念だ。何より別会社への吸収合併で、同社の独自性が失われてしまう点も甚だ遺憾だ。

では逆に、どうすれば生き残ることができたのか。第三者の立場ではあるが、次を狙う挑戦こそが勝負の分かれ目だったのではないか。

同社の場合はラバーマスクの製造・販売が主たる業務であり、収益の大多数もそこに依存していた。最盛期には1億円以上も売り上げていたというが、本来ならそこで得られた収益をもとに次なる収益源を作り出すことが求められていた。いわゆる多角化無くしては主業務が傾いたときに社全体が傾いてしまうし、そこで働く人々もたちまち露頭に迷う。

営利企業である以上、企業とは利益を確保・最大化させることがその存在意義である。そのためにはいかにして利益を最大化させるかということを常に考え行動する必要がある。最盛期だからといって「これで大丈夫」と油断をせず、常に挑戦意欲を持って次なる収益源を作り出すことが重要だ。

もちろん全く異業種への進出はノウハウ不足でリスクもあるため好ましいものではない。主業務のノウハウや設備などが応用でき、相乗効果を生み出す業務を足がかりとするのが良い。同社の場合であれば設備を生かしたゴム製品のOEM生産やデザイン力を生かした美術用具の制作、キャラクターライセンスを生かしたグッズ生産といった業務が考えられる。

このような挑戦の連続こそが経営であり、企業を企業たらしめる唯一無二の方法である。

■もちろん同社なりにも努力はしていたと思うが、結局は主業務の不振から業務終了という選択肢をとった。設備の老朽化やスタッフの高齢化などでこれ以上のビジネス展開が困難だったことも背景にあるのかもしれない。

ヒトモノカネが充実している大企業に比して、中小企業はヒトやカネが不足している場合が多い。そのような時こそ、協業という選択肢が有効だ。カネそのものは難しいにしても、中小企業同士でヒトやモノといった資本を共有すればカバーできる。そこにアイディアという資本も共有できれば、これに越したことはない。各企業内に暗黙知として眠っていたアイディアが一気に表層化し、新しいビジネスにつながる。

そのような時に、地域という地縁は大いに機能し得る。同じ地域だからこそ企業同士に近接効果が生まれ、お隣さん同士だから互いの事情にも精通しあっている。例えば北海道と沖縄という物理的な距離がある場合よりも、相互理解や融和へのハードルは断然低い。地域の産業強化や雇用の受け皿確保といった効果も生まれる。

■「経営をいちばん熱心に真剣に考えるのは、中小企業の主人公だ。大企業の経営者は困難を直接肌で感じないから、おのずと行動に力弱さが出てくる」

日本を代表する経営者の一人、松下幸之助(1894〜1989)が残した言葉だ。

とかく中小企業というと「給料が安い」「ブラック企業」といった目線で見られることが多い。マイナビが来年卒業する大学生に向けた意識調査で過半数が大手企業を志向するなど、こと働く者の目線からは中小企業は下に見られ大企業を上に見る風潮が強い。

しかし日本に存在する企業の99%以上は中小企業であり、総労働者の約2/3が勤めるなど雇用の受け皿にもなっている。同社のようなユニークな技術や製品を有する企業も多い。何より、全国的な販売網を一手に有することは稀なので地域主体の営業となる傾向にあり、地域活性化の主体にもなりうる。そう考えると中小企業には無限の可能性がある。

先に述べた多角化も、必ずしも各企業の事情に合っているとは思えない。しかし、社会が目まぐるしく変わる現代こそ挑戦なくして中小企業が生き残ることは不可能に近い。

補助金などはあっても、あくまで「栄養ドリンク」でしかない。それらも含めて熱心に考え挑戦することで大きな力が生まれるし、明日が見えてくる。そのような挑戦を認め合うことこそが、コロナを乗り越えるためにも地域に求められている。

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