【埼事記 2021/9/12】生活保護受給者・ホームレス侮蔑発言 批判だけは「共犯」だ

■「ホームレスを体験して感じたことは、『助け合いの場を提供したい』と世界中の人たちが思わなければ、この世の中はよくならないということでした。世界を変えるには、助け合いの気持ちをお互いのコミュニケーションの中で育てていくしかありません」

利用者の持つ悩みや疑問にネットユーザーが答えるウェブサービス「OKWAVE」の創業者・兼元謙任氏は、自らの人生をこのように振り返っている。

プロダクトデザインに従事するため愛知から上京したものの、仕事がもらえず一時はホームレスを経験した。そのような中でもWebデザインのスキルを身につけ、同サービスを立ち上げた。リリースから20年近く経った現在では、会員数が200万人を超えるサービスとなっている。

■東京パラリンピックや自民党総裁選の話題で近頃の世間は持ちきりであるが、先月初めにある著名人の発言が物議を醸した。

メンタリストでYoutuberのDaiGo氏が、自らのYoutube配信で「生活保護の人達に食わせる金があるんだったら、猫を救ってほしい」「ホームレスの命はどうでもいい」と発言した。

この発言に対して各界から批判が相次ぎ、厚生労働省も「生活保護申請は国民の権利」とツイートを行っている。同氏を起用しているCMや広告も軒並み取り止めを発表する事態になった。

当の同氏は当初は批判に不服な様子だったが、省庁までも揺るがせたことがわかると反省の弁を述べている。

■こと著名人の発言ということで各方面から批判が集まった。しかし、同氏だけでなく、批判する我々市民自身にも生活保護受給者やホームレスに対する偏見がありやしないか。

法務省が2017年度に実施した人権擁護に関する世論調査では、3割以上のホームレスが「差別的な言動をされている」と答えている。厚生労働省が2016年に実施したホームレスの実態に関する全国調査でも、1割近いホームレスが近隣住民など第三者からの暴力や嫌がらせを人権問題として相談したいと答えている。

生活保護受給者への偏見や差別に関する調査は見当たらなかった。それでも、2016年に日本弁護士連合会(日弁連)が「生活保護に対する偏見と誤解をなくすために」として著名人のコメントを載せたリーフレットを配布している。同リーフレットでは「報道などで生活保護自体にネガティブなイメージを持つ者がいるのでは」と書かれている。

■仮にも200万人近いYoutubeチャンネル登録者を抱えるだけに、同氏は社会的影響度が少なからずある。多くの人々の価値観にも影響しうるだけに、節度を持った言動が求められる。それゆえ、このような発言は到底許されるものではない。

その一方で、我々の深層心理にこうした人々に対する偏見があるのは確かである。我々全員がそうだとは思わないが、そのような偏見があるのに、同氏が著名人だからといってこれでもかと叩くのは自分勝手に他ならない。

例えばTwitterなどのSNSにしても仲間内での会話にしても、そのような人々に対する偏見を是とする言動をすれば同氏と同じになる。それを良しとしておきながら、著名人の発言についてはひどくこき下ろす。「共犯」といっても差し支えなかろう。

もっと言うと、上記統計のような偏見や差別の実態も知らずして同氏発言に怒るのも「共犯」だ。感情任せに怒るというのは、動物の本能と同じで条件反射で、そこになんの考えもない。また同じようなことがあれば怒る繰り返しで、空虚以外に何も生まれない。当然、偏見や差別がなくなるわけでもないし、第二第三の同氏の登場を許してしまう。

■「私たちは皆、明るい面と暗い面の両方を持っています。重要なのは、私たちが行動した部分です」

イギリスの小説家、J・K・ローリング氏の言葉である。同氏も生活保護を受給していたこともあり、世界的ベストセラーになった「ハリー・ポッターと賢者の石」もその時に書き上げている。

一番大切なことはDaiGo氏の発言に怒って終わりではなく、その根本にある生活保護受給者やホームレスへの偏見や差別を解消するために個々人として何ができるか考え行動することだ。仲間内の会話であっても、そうした偏見は許さないようにしないといけない。

このコロナ禍で多くの人々が困窮し、いつ自分がそのような人々と同じ立場になってもおかしくはなくなってきている。いざそうなった時に偏見や差別が残っていればますます苦しむばかりだ。

誰もがDaiGo氏になりうるし、誰もが偏見や差別を受けうる。そのような時代だからこそ、自分の身を守るためにもこうした問題に真剣に向き合う必要があるのではなかろうか。

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