秩父郡の町・小鹿野町の見どころ紹介は今回で最後となる。
最後に紹介したいのが、町の西側で秩父市との境近くにあるおがの化石館だ。
ジオパーク秩父ー地質学発祥の地
連載内でも触れたが、小鹿野を含む秩父地域は長瀞の岩畳や武甲山に代表されるように地質資源が豊富にみられる。
東京の近くにあることもあり、地質学が萌芽した明治初期より同地域では地質調査が行われてきた。ナウマンゾウの由来で知られるナウマンや農林学生であった若き日の宮沢賢治も調査を行なっているが、これこそが同地域が日本地質学発祥の地と言われる所以だ。
(ジオパーク秩父より、以下画像も同)
こうしたことから小鹿野を含む秩父地域の1市4町に跨る約89,250haの区域は、2011年よりジオパーク秩父として登録されている。
同地域には地質学的な価値の高い場所が数多く存在しており、2016年には一部の場所や出土した化石が古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群として国の天然記念物に指定されている。
地域の中央に存在する小鹿野町一帯には、約2億年前のジュラ紀から白亜紀をへて約1700〜50万年前の新生代に至るまでの地層が存在している。
特に1700万〜1500万年前の新生代新第三紀にかけてジオパーク一帯には古秩父湾と称される海があっただけに、同町からは海洋生物の化石が数多く見つかっている。
化石館で思わぬ発見
そのように町域内で見つかった化石の展示や研究にあたっているのが、今回紹介するおがの化石館だ。
奇獣・パレオパラドキシアを見る
正面玄関を入り入館料を払うと、このような古代生物の巨大骨格が出迎えてくれる。幅は1.5m、高さは1mはあろうか。
秩父ということで、これは言うまでもなく奇獣・パラオパラドキシアの骨格だ。「古代の不思議な物」という意味の同生物は1500万年前の古秩父湾を泳いでいたとされるカバにも似た海洋哺乳類だが、その生態には謎が多い。
1981年には同町長若地区から化石が見つかっている。なおこちらの骨格は復元模型で、海を泳いでいる様を再現している。
ちなみに屋外には同生物を模したモニュメントもある。漫画にでも出てきそうなデフォルメされた愛くるしい姿が非常にたまらない。
写真撮影は失念したが、同館隣には大正時代に同町含む秩父を訪れた宮沢賢治とその親友である保阪嘉内の友情の歌碑もある。
収蔵数約700展 国内外の化石たち
同館の目玉は、その名の通り化石展示。
同町や秩父周辺だけでなく、県外や海外を含め各地の化石を約700点展示している。
ちなみに同館では2012年に館内をリニューアルし、壁面に地元の材木を利用している。木のぬくもりが実に暖かく感じられる。
古代の小鹿野・秩父の化石たち
それでも何と言っても見ておきたいのが小鹿野を始め秩父地域で見つかった化石たち。同館でも多数展示している。
こちらは実際に同町で見つかったというウミユリの化石。約3億年前の古生代石炭紀のものとされる。
そしてこちらは、約2300〜500万年前の新生代新第三紀中新世のものとされるハヤシホタテ類の化石。今でこそ海から離れている同町だが、ホタテの化石が見つかっているという事実からもこの場所は海だったと容易に想像がつく。
他にもサンゴやチチブクジラなど同町周辺では海洋生物の化石が数多く発見されている。
今では周辺を源流とし海に流れる荒川流域からも見つかっているというのだから驚きだ。
今だけもらえるホンモノの化石
他にもレプリカ化石を作るワークショップなど、化石に関するイベントも同館の魅力だ。
そんな同館、期間限定で来館者に対して本物の化石をプレゼントしている。受付横の箱の中に入っているというので手を入れて取り出してみる。
すると二枚貝の化石を引き当てた。最後に立ち寄った場所で思わぬお土産が手に入った。
この化石プレゼントは3月いっぱいまで行われているようだ。
陽の当たる崖ーようばけ
ところで同館の2階からは岩肌が露出した崖が見える。
赤平川の対岸にあるこの崖はようばけという。少し変わった名前だが、日が暮れても陽が当たって輝く様から農民たちが太陽の当たる崖という意味でようばけと呼んだことに由来する。
高さ約100m・幅にして約400mにおよぶ同崖は約1500万年前の古秩父湾の地層が侵食されてできたもので、日本の地質百選や国の天然記念物にも選ばれている。
特に同崖の地層は同湾の浅瀬にあたることから、カニや貝類などの化石が多く見つかるという。
近くにも行くことができるが、赤平川対岸にある同崖への立ち入りは禁じられている。そのため同館2階のベランダには、同崖の様子を遠くからも見られるよう有料の望遠鏡がある。