【埼事記 2023/2/12】カネの循環創出をー日銀新総裁の使命

■「経済とは貨幣を消費する意味でもなければ、これを節約する意義でもない。それは一国一家の経営と処理の義である」

19世紀英国の評論家ジョン・ラスキン(1819〜1900)の言葉である。

ニュース番組で国家予算の説明に国を一つの家計に例える例もあるが、いかに使うべきところにカネを使って蓄えを最大限にできるか、家庭でも皆が日々頭を悩ませていよう。国家だけでなく家庭でも経済というのはそうした営みを表しているということなのかもしれない。

■空前の円安が続いた日本経済に少なからぬ激震が走った。

2/10に政府は10年間総裁の職にあたり4月で退任する黒田東彦日本銀行総裁(78)の後任に、元審議委員で経済学者の植田和男氏(71)をあてるとした。財務省や同銀出身者でもない総裁職への学者の起用は戦後初という。

東大理学部・経済学部、マサチューセッツ工科大学で学んだ同氏は長きにわたり東大で教鞭をとったが、1998年には同銀政策委員会審議委員に就任。バブル崩壊後の平成不況において、ゼロ金利政策や量的金融緩和政策導入を経済学者として理論面で支えた。2000年の金融政策決定会合では、ゼロ金利政策の解除に反対票を投じたことでも知られる。

この起用が報じられると、思わぬ起用ということで超低金利政策転換への期待感から円が多く買われた。同氏が「緩和政策の維持が適切」と発言したことで落ち着きを取り戻したが、長期金利の指標10年債利回りも3週間ぶりに0.5%に達している。

副総裁には内田真一理事と氷見野良三前金融庁長官を起用し、三頭体制とする方針だ。

■同氏の発言からすると、今までの超低金利政策を維持するかそれとも転換するかは不透明だ。

しかし、一国の金融の番人を務めるには、国家経済の成長発展へ向けて最大限の努力をしていただきたいというのが我々市民の願いだ。

12月に同銀が発表した四半期ごとの日銀短観によると、大企業(製造業+7、非製造業+19)や中堅企業(製造業+1、非製造業+11)では業況判断について「良い」が「悪い」を上回っていたものの、製造業の中小企業については-2と「悪い」が上回っている。今後の先行きについても大企業(製造業+6、非製造業+11)は好感的に見ているのに対し、製造業の中堅企業(-2)や中小企業(製造業-5、非製造業-1)で厳しい見方がある。

一方昨年9月の財務省発表によると、2021年度の大企業の内部留保額は前年度比17.5兆円増の484.3兆円だったという。中小企業も含めた利益剰余金は516.5兆円ということで、大企業以外の中堅・中小企業にはわずか6%程度の内部留保しかないということになる。

■言わずもがな、我が国の企業の大多数は中小企業である。

2016年の統計でも全企業の99.7%たる約358万社は中小企業で、そこに従事する従業員数も3220万人と全従業員の2/3を占める。

それだけに経済の中心を占める中小企業にしっかりカネが行き渡らないと経済も回らないはずなのだ。上記の事実を見るに大企業にばかりカネが回っているように見える。確かにコロナや原油高などでマイナス材料も多いが、大企業は潤沢な内部留保で苦境を乗り越えられたとしてもカネがない中堅・中小企業は厳しいかもしれない。だからこそ先行きも厳しいと見ているのかもしれない。

■経済を一つの体とするなら、カネは体を流れる血液となる。もしその血液が体の一箇所だけに滞留していたらどうなるか、皆想像もつくはずだ。今の状況というのはそういうことなのだろう。

カネ余りが叫ばれて久しいが、実質賃金も上がらないなど我々市民の生活も一層苦しくなるばかりである。7人に1人が貧困とされているが、やはり行き渡るべきところにカネが行き渡っていないからなのではないのか。

同銀だけで全てを司るのは難しいのかもしれない。しかし、金融の番人として同氏には「心筋梗塞」を避けるべく、政府はじめ財務省や経済産業省など関係省庁の尻を叩く役割を担っていただきたい。

兎にも角にもそうした中小企業にカネが行き渡らない限り、国際競争力ある日本など成立し得ない。眠っている活力を引き出し魅力ある金融市場を創り出し、外貨を呼び込む。そしてカネを循環させて市民の生活福祉向上を実現し、再生産を促進する。これこそが金融の番人たる日銀総裁が目指すべき姿だ。

どう転ぶかわからないからこそ、先に目指すべき姿を示した。さて、卓越した審美眼と叡智を持ってそこへどう向かうか、同氏の手腕に注目したい。

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