【埼事記 2020/10/25】「日の丸」ブランドの失墜 これからのものづくりを考える

■「日の丸ジェット」はもう見られないのかもしれない。

10/22、三菱重工業子会社の三菱航空機が開発を進めている国産小型ジェット機「三菱スペースジェット」の開発を凍結する方向で調整に入ったと各社より報道があった。三菱側は同報道を否定しているが、遅々として実用化がなされていない状況を見るにそのような方向が現実的だ。

ボーイング社やエアバス社の台頭が続く航空機業界において、経済産業省提案のもとYS-11以来40年ぶりの国産ジェット機として実用化が待たれていた同機。量産後の受注も各航空会社から得られるなど、業界内外で注目されてきた。

しかし、実用化に向けて米国航空局の型式証明を得るのに何度も設計変更を繰り返し、その度に納期遅延を繰り返してきた。当初は2013年納入という予定だったが、未だ型式証明もままならず今に至る。

■高度経済成長からバブル期にかけて世界を「Japan as No.1」が席巻していた。

資源が乏しいながらも日本は諸外国の技術を習得し、そこから研究開発を重ね高品質かつ高付加価値なものづくりを実践。そうしてつくられた製品が世界各国においてその価値を高く認められ、「安かろう悪かろう」という日本製品の評判は完全に覆った。

■しかしバブル崩壊と中国や東南アジアなど新興国の台頭により、今やその立場は完全にひっくり返ってしまった。無論、依然として各企業には高い技術があるも、世界を席巻するほどには至っていない。

むしろニーズ多様化や製品ライフサイクルの短期化が一層進行する中で、リーダーをサル真似をしつつ当座の利益を確保するという短絡主義がまかり通っている。

他方で企業の内部留保が過去最大を記録している。この利益を研究開発・技術強化へ再投資できればいいのだが、目の前のことで精一杯になっているのが現状だ。

日本の産業の大多数が内需向けだからこそ、国内での資金循環を促進するためものづくりによる外貨獲得は欠かせない。にも関わらず、過去の実績や名声に甘んじてイノベーションが起きない。研究開発をしていても、今目の前の利益を主眼としている。これこそが今のものづくりの問題点だと言える。

外野からの考察ではあるが、同機の開発凍結の裏にもこのような状況があるのかもしれない。

■企業の使命とは利益確保であり、そのためには日々成長を実現しなくてはならない。

ではいかにして成長を実現するか。強みの訴求・強化で機会を最大限利用し、弱みや脅威を克服することに帰するはずだ。

技術・ノウハウという強みがあっても、それは常時継続的に競争優位の源泉にはなり得ない。だからこそ継続的な研究開発やノウハウ蓄積は必要ではあるが、そこに繋がるニーズというのは必ずしも目に見えるものとは限らない。

研究チームだけで考えているとどうしても偏った見方しかできなくなる。それゆえ販売や生産部門、協力会社や時に同業者と幅広い視点からニーズを集めて研究開発を行うことが必要ではないのだろうか。

■特に昨今では情報漏洩を防ぐため各企業の技術についてクローズにする傾向が強くなっている。模倣されたくないコア技術については隠すのがいいだろうが、オープン化を進めてより広い視点から声を集めるのはどうだろう。

そこで集まった声は必ずしも利益に直結するものではないのかもしれない。しかし、顧客の利便性向上には資するはずである。

■同機の開発凍結で「日の丸ブランド」の弱体化をまざまざと見せつけられた。

それでも企業は前に進むしかない。コロナや少子高齢化で社会もこれから大きく変化していくが、短絡思考ではなく未来志向のものづくりを今こそ実践していくべきだ。

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