人形のまちとして名高い岩槻に岩槻人形博物館が2/22にオープンして、1ヶ月が経とうとしている。
残念ながら新型コロナウイルスの影響で今月いっぱいは臨時休館の憂き目に遭っているが、60年近くに及ぶ悲願達成に地域は沸いている。
開館記念式典の模様
開館に合わせて同日9時より記念式典が行われた。まだ真新しい同館の前にやってきて、新たな歴史の始まりに胸が踊る。
同式典には大野元裕埼玉県知事をはじめ清水勇人市長や県・市議会議員など来賓が多数参列した。新型コロナウイルスの流行に伴いマスクを着用する参列者の姿も多く見られたが、
このうち渋谷佳孝市議会議長は、祝辞の中で市議会としても魅力あふれるまちづくりに向けてバックアップしていくと述べた。
その後各来賓やさいたま観光大使さいたま小町によりくす玉が割られた。
館内で触れる人形の世界
10時の開館と共にいよいよ館内へと入っていく。初日ということもあり多くの人々が入場券を買い求めようと列を成した。
埼玉の人形作り
館内は主に3つのフロアで構成される。一部を除いて撮影は可能だ。
まず最初に埼玉の人形作りフロアに入る。
こちらでは主に岩槻の人形制作で用いられている道具類や人形ができるまでの過程を紹介している。
特に岩槻では木目込み人形が昔から作られてきたが、手作業の部分も大きい。道具と職人の腕によって一級品の人形が仕上がっていく。
スペースの都合なのか、引き出しの中に展示がなされている箇所もある。
日本の人形の展示
続けて日本の人形フロアに入る。こちらでは同館が所蔵する日本人形を多数展示する。
特に中心的なのが日本画家・西澤笛畝氏(ほてき、1889〜1965)によるコレクションで、その数はおよそ3,500点に及ぶ。古典人形を中心に郷土玩具や世界の人形などジャンルも多数に及ぶ。没後は越生町にある笛畝人形記念美術館に所蔵されていたが、同館閉館に伴いさいたま市が取得している。
このほか実業家の浅原革世氏によるコレクションが約800点、埼玉や東京など各地の旧家に伝来し寄贈された人形も多数収蔵されている。
雛人形だけでなく様々な用途で作られた古典人形を同フロアでは展示している。
こちらは江戸時代に作られたとされる公家人形。公家や武士に重宝されたという同人形はふっくらしたこどもが山車を曳き、楽しげな様子が伝わってくる。所有者自身も我が子のように愛でていたのだろう。
こちらも江戸時代に作られたとされる竹田人形。上方大坂のからくり人形芝居・竹田座に由来する役者人形の一種にあたる。
鍬を肩にかけ左手を伸ばすその様は、あたかも芝居のワンシーンを写真のように切り取ったかのようだ。
今でこそ3Dプリンタで写真からフィギュアを作るといったこともメジャーになりつつあるが、人形によって写実的に人物を再現したいという思いは江戸時代の人も同じだったのかもしれない。
開館記念展示「雛人形と犬筥・天児・這子」
3つ目のフロアは企画展を行うためのもの。今回は三弾に呼ぶ開館記念企画の第一弾として「雛人形と犬筥・天児・這子」というテーマで展示が行われている。
同館の所蔵する雛人形の名品や人形のルーツとされる希少な犬筥、天児、這子を展示する。
クラシックな出立の同品は江戸時代に作られた次郎左衛門頭立雛。京の人形店・雛屋次郎左衛門が考案したものとされ、引目で優雅な顔立ちが特徴だ。胴体は紙製ながらも松竹梅鶴が着物部には描かれており、とても縁起高いものだと感じさせる。
それにあやかってなのか、公家や武家に強く好まれたという。
こちらも江戸時代に考案された八人雅楽。江戸で考案された武家好みの五人囃子とは対照的な、公家好みの一品だ。
江戸時代は武家は江戸、公家は京都と別れていただけに双方で受容される文化も異なっていたようだ。
こんな変わった展示もある。幅にして5cm高さにして3cmほどとまるでマッチ箱のような大きさの雛人形。
これは江戸後期に流行したとされる芥子雛。奢侈禁止令で8寸以上の人形の製作が贅沢品として取締対象になったことから作られたという。小さく繊細なものを好む日本人の気質からか庶民の間で好評を博し、次第には公家や武家にも愛好者が出たそうことだ。
CADもナノテクノロジーもない時代にこれだけ精密な人形を手仕事で作るのだから、人形職人の偉大さは計り知れない。