【埼事記 2021/3/11】東日本大震災10年 10年周期の大敵に打ち勝つには

■「震災は、結果に於て、一の社会革命だった。財産や位置や伝統が、滅茶苦茶になり実力本位の世の中になった。真に働き得るものの世の中になった。それは、一時的であり部分的であるけれども、震災の恐ろしい結果の中では只一の好ましい効果である 」

真珠夫人などの小説作品を残し文藝春秋や芥川賞・直木賞の創設にも関わった菊池寛(1888~1948)の言葉である。

この震災とは、同誌を創刊した年の9月に関東一円を襲った関東大震災を指す。

日露戦争などの大戦好況に湧いた日本は同地震で震災不況に陥る。そして結果的に戦争の時代へと入っていくのだった。

■約90年後、東日本をはじめ世界各国にも大打撃を与えた地震が発生した。10年前の2011/3/11 14:46頃に発生した東北地方太平洋沖地震をはじめとする東日本大震災だ。

地震による倒壊などもさることながら、観測史上最大とされるマグニチュード9.0の本震では巨大な津波が発生。東北の太平洋沖の地域は海水に飲み込まれ、結果として1万5千人以上もの人命が奪われた。いまだ行方が分からない者も多い。埼玉県でも宮代町で震度6弱を記録した。

それに留まらず、福島県双葉郡大熊町にあった東京電力福島第一原子力発電所においてもメルトダウンが発生。原子炉から放射性物質が拡散し周辺地域は警戒区域として居住や往来が制限されることになった。スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故に並ぶ原子力災害として、国内はもとより世界各国に大きな衝撃を与えた。

津波による地域壊滅や警戒区域設定により、被災地に居住していた人々も地域外への避難を余儀なくされた。その一部は旧騎西高校(加須市)をはじめ埼玉県内にも避難してきている。

■阪神淡路大震災(1995)や新潟県中越地震(2004)など大規模な地震はそれまでも起きていたが、同地震は甚大な被害や原発事故を引き起こし、日本列島の位置もずれたという。それだけ社会に与える影響は大きかった。

そこからの10年間を振り返ると同地震翌日の長野県北部地震にはじまり、御嶽山噴火(2014)や熊本地震(2016)、西日本豪雨(2018)に東日本台風(2019)と2010年代は激甚級と呼べる災害が多く起きていた。

それに伴いBCPが経営上の至上命題となり、災害に備えたインフラや制度の整備が進むなど、社会のあり方や人々の価値観も菊池の言葉のごとく変容した。

それだけに2010年代は「災害との戦い」の10年だったと言える。

■ここ30年ほどを振り返っても、1990年代はバブル崩壊(1991)に始まる「不況との戦い」の10年だった。山一證券や足利銀行といった金融機関の破綻や金融ビッグバン、氷河期世代の誕生など不況というワードが常に社会に暗い影を落としていた。

2000年代を見ると、アメリカ同時多発テロ(2001)やイラク戦争(2003)に日朝首脳会談による拉致被害者帰国(2002)と「テロや諸外国との戦い」の10年だった。同年代中盤の竹島問題表面化やアフガニスタン日本人拉致事件(2008)もこの年代だ。

■目下の2020年代は、やはりコロナをはじめとする感染症との戦いだろう。同感染症により経営破綻や雇い止めが頻発するほど、その社会的影響は決して無視できないものとなっている。

こう見ていると、10年ごとに新たな戦いが起きているようにも感じられる。そのどれもが未だに収束の兆しを見せていない。未だ市井では平成不況の尾を引きずり、拉致問題も解決していない。常に災害のリスクもある。そして、目下ではコロナの脅威だ。

「もう10年」ではなく「まだ10年」なのだ。

■依然として終わる見込みのない10年周期の戦いを終わらせる切り札は何か。

様々考えられるが、やはり人々の絆や互いを思いやる心に勝るものはない。

不況やテロの脅威や災害や感染症でそれまでの価値観が大きく否定されてきた経験を、我々は味わってきた。その中で変わらないものといったら人々の絆だ。家族や友達、近所や職場と形態は様々ではあるが、そのようなつながりがあるからこそ我々は生きていけるし、どれだけ社会が変わろうともそれは変わることはない。

それに加えて、互いを思いやる心がなければ終わりなき戦いは収束し得ない。

不況による就職難、外国や感染症への恐怖、被災の心のケア。苦しんでいる人々を癒すのは金でもなく物でもなく、同じ人間の温もりだ。同地震をはじめとする災害時にボランティアの活躍が被災者の希望につながっているのを見ると、それは顕著である。

AI化やSNSやオンラインツールがいくら発展しても、最後は人の心が鍵となるのだ。

■改めて、東日本大震災で犠牲になられた方々へ心より冥福を祈りたい。

そして今までの戦い、そしてこれからの戦いへ向けて「負けてたまるか」。

互いに手を取り、共に生き抜いてやろう。

 

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