いざ武州の嵐山町 その3 地域一体で飛翔 オオムラサキの飛ぶ町

我が国の国蝶として知られるオオムラサキ。

開発が進み生息地となる雑木林も少なくなってきているが、嵐山町においては40年近くにわたり地域の官民一体で同種の生息地となる雑木林を保全し個体数増加につなげている。

オオムラサキとは

同種はタテハチョウ科に分類されるチョウの一種。その成虫は羽を開くとサイズが10cmほどと、我が国に生息する同科としては最大の大きさとなる。オスの青紫色の羽からその名がつけられた。

日本をはじめ朝鮮半島や中国など東アジア地域に生息するが、初めて確認されたのは日本だったという。

主な生息地は雑木林で、産卵を経て幼虫・サナギ・成虫とその生涯の大部分を雑木林で過ごす。夏の産卵で孵化した幼虫は葉を食べて成長し、冬は地面に降りて冬眠。春に冬眠から目覚めると蛹になるが、この蛹は木の葉のようにも見える。そして成虫は6〜8月の夏季に羽化し木々の樹液を吸って生きるが、スズメバチなど他の昆虫を蹴散らすこともあるという。

古くから山林部で馴染みのある蝶だっただけに、日本昆虫学会によって1957年より国蝶に指定されている。雑木林の減少で都市部で見かける機会は少ないが、同町をはじめとした地域では今も生息している。環境省のレッドデータブックでは準絶滅危惧種、埼玉県レッドデータブックでは絶滅危惧二種に指定されている。

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嵐山町での保護・育成の取り組み

オオムラサキが飛ぶ森

高度経済成長期の1970年代、薪から化石燃料へエネルギー転換が行われ同種が生息する雑木林が都市部で減少していった。

このような中で森林を多く有する同町では、豊かな自然を後世へ残していくべく1981年に埼玉県が嵐山町ふれあいの里嵐山県民休養地基本計画を策定したことをきっかけに、同種をシンボルとした生態系の保全・活用が推進されることになった。

その一環で嵐山渓谷近くに設けられたのが、オオムラサキの森である。

広場や観察林や実験林など1.75haに及ぶ同森は、地域住民や近隣の小学校らの関係者によるオオムラサキの森づくり協議会と県によって1985〜87年にかけて整備された。

季節が季節だけに現在は静かであるが、夏季になるとこの森には同種はもちろんカブトムシやクワガタなど多くの昆虫が生息。

夏場のシーズンには多くの虫たちが樹液めがけて飛び交う様が想像される。

なお同森の近くにはかつて鎌倉街道が走っており、それを示す石碑も敷地内に残されている。

活動センターでの同種紹介・環境保全活動

地域ならではの特徴とは?

敷地内の一角にはオオムラサキの森活動センターという同町が管理する施設がある。

ログハウス調の同施設は同森の環境保全の中心施設であるだけでなく、同種をはじめとした地域の生態系紹介や環境啓発を行う。

一角には同町で生息する同種の標本もある。

これによると、前羽の付け根にある二つの白い模様が細い線でつながっていたり離れているものが埼玉県産の特徴なのだという。

遺伝的なものなのだろうが、このような模様が見られたら埼玉産と考えてもいいということか。

地域一体での環境保全

同施設を拠点に同種の個体増加に向けた環境保全の取り組みが地域一体で行われている。

町や県といった行政はもちろん、NPO法人自然の会オオムラサキや嵐山モウモウ緑の少年団といったボランティア団体に一般町民や幼虫の越冬調査を行う地域の学校、加えて同町シルバー人材センターといった各種団体らが手を組んで協働体制を敷いている。

40年近く前に始まった生態系保全の取り組みも地域住民らが中心に行ったことだが、そのDNAは今も脈々と受け継がれている。

地域の学校や保育園では同種を飼育しているところもあり、羽化した夏季には同森で放蝶会も行われている。

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