貧困こども食堂を待ち受けるもの-罵声、殺伐、怒りの声-胃袋ファーストから

貧困に向き合う、こども食堂はこんな経験にも直面するだろう。
四国の貧困世帯の子どもが集まる、あるこども食堂を訪問した際、インタビューの中で、開設当初は「ウザい」等の罵る言葉しか、子ども達は発しなかった。しかし、子ども達は今も通い続けている。子ども達は、大人達との関わりは求めているが、関わり方が分からなかっただけなのだ。私の訪問時には、餃子をボランティアと一緒につくっていた、少しやんちゃな子ども達の、緩やかな居場所であった。
私の25年ほどの生活困窮者支援の経験上、また福祉事務所の現場の声からも、下記の傾向が分かっている。困窮に苦しむ大人の男性は、「助けてほしい」と素直には表現できずに、怒ってしまうことがある。このような大人の怒声が生じるとき、「こども食堂は子どものための場所です」などと言って、助けを求める声に耳を塞がないで欲しい。

苦境への怒りの矛先は、国会議員や資本家にではなく、身近なボランティアや社会福祉の専門職、もしくは自分よりも弱いものに向かってしまう。なかには弱いものに自分の力を見せつけることで、プライドを保つという人もいる。

また「同じように困窮しているのだから、人々は支え合うだろう」ともならない時がある。人間はある程度、ゆとりがなければ他者を気遣う心も、一時的に失ってしまうのかもしれない。
しかし、生活と精神が落ち着いた後に、緩やかな支え合いをつくっていくことは可能だ。人類の歴史から学ぶならば、共同の営みと相互支援によって、生存を続けてきたことが分かる。

時に焦って、立ったまま窮状を訴える人についても怒る人も、座って落ち着いて話をしましょうという姿勢が求められる。物理的にも同じ目線に立つべきだ。社会的距離を確保する必要が生じるが。
他人を気遣う余裕が感じられない殺伐とした雰囲気も感じるかもしれないが、温かい食事とさりげない声がけで、居場所は取り戻すことができる。先ずは、大人も子供も満腹になることから=満腹主義だ。これは、生活困窮者支援の領域に就職する卒業生に、いつも教えてきた。寿町の簡易宿泊所の子ども支援の歴史から学び、ホームレス支援の経験のなかでも度々学んだ。「胃袋ファースト」こそ生活困窮者の支援の基本だ。

収入が減ると、生活や医療のためのお金が不足する中では、食費が圧迫されていく。空腹が人間らしい心を奪ってしまうのだと、学生であった私にホームレスの人々が教えてくれた。
また、空腹の子どもは「おかわり自由」であると、おかわりを繰り返し、食べすぎて不調を訴える事も、記録の中では頻出のエピソードである。

「貧困は、人間を駄目にしてしまう」とは貧困研究の古典の中の言葉である。差別的に聞こえるかもしれないが、経済的な困窮は、健康も生活も、子どもの教育も家族も損なってしまうことがある。そのような貧困の渦から、私たちこども食堂は、子どもたちと家族を守らなければいけない。難所が続く道だろうが、社会の多くの人々と共に前に進もう。

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貧困の世代間連鎖=未来を変えるための活動へ

コロナウイルスの感染拡大により、「StayHome」「家にいよう」と求められた。しかし、Homeが拠りどころではない人も、この社会には少なくない。コロナによる虐待の危険に直面する子ども。不安定な雇用・子育て・家事の負担増大等によってメンタルヘルスが追い詰められる親。一人暮らし高齢者。多世代が家も安心できず、外に出て地域に居場所を得ることも出来ない日々が続いている。

感染予防を行いながら、居場所を取り戻そう。一律の自粛ではなく、コミュニティのことはコミュニティで決めれば良いのだと思う。コミュニティづくりも、これからの課題である。

高度経済成長を経て、この国は「貧困」をホームレスや派遣労働者、シングルマザー、ドヤ街など限られたところに押し込め、見ないふりをしてきた。貧困は、社会に徐々に広がり始めていたが、コロナウイルスによって、失業と貧困は急速に拡大するだろう、つまり、不安定な雇用や生活と「普通の暮らし」を隔ててきた堤防が決壊する日は近い。コロナウイルスの感染のリスクと同じで、安全な場所はない。

貧困と社会的孤立、虐待等の家族問題、メンタルヘルス、排除、居場所の喪失という課題。これらは昨年12 月 22 日に「こども食堂のはじめ方・続け方講座」(川口こども食堂の佐藤 匡史代表と共同で呼びかけ)でも、子ども達の「見えない課題」として挙げられていたものであった。ある意味、今日の子どもを巡る状況を予想し、孤立する家庭に対し、こども食堂と地域が何が出来るのかということを、先んじて議論した機会であった。

もちろん、コロナによる失業と貧困に民間だけでは、ましてこども食堂だけでは、あまりに微力だ。先の講座で発表した、昨年12月に私たちが実施したこども食堂ボランティア全国調査では、「子ども食堂の継続に不安がある」71・3%となった。その理由のトップは「ボランティアの不足」で49・5%。次いで「資金の不足」42・6%、「行政や地域との関係」32・7%、「ボランティアの高齢化」26・7%、「会場の継続した使用」21・8%と続く。

「こども食堂の活動で困難やストレスを感じたことがある」と答えた割合は82・2%となった。
その要因は「子ども食堂内の人間関係」と「行政などとの関わり」がともに37・6%で最多。「子ども食堂が必要な対象の子どもたちに届いていない」35・6%と続く。

拡大を続けてきたこども食堂も、昨年には「閉店」も各地で散見された。
コロナウイルスによる開催休止と、これからの「再始動」は、こども食堂とっては活動の再検討、再構築を、ボランティアにとっても自らを問い直す機会ともなるだろう。

ウィルスとの闘いと合わせて、貧困との闘いは、社会のための総力戦でなければ勝利はない。絵空事を言うなという意見もあるだろう。そうかもしれない。

しかし、今この失業や貧困を放置するならば、さらなる悲惨、つまり辛い現実から逃れるための自殺、アルコールや薬物依存症、問題行動等を生み出すのだ。

家族や地域社会にとって、そして私にとって、子どもは未来だ。
今年から来年にかけての、こども食堂等の取り組みによって、社会の未来が決まるのかもしれない。

未来のための活動に、私たちは自らを問い直しながら、力を合わせて、立ち上がるべきではないだろうか、何度でも。

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寄稿者紹介

関屋光泰(せきや みつひろ)

東洋大学ライフデザイン学部助教、精神保健福祉士、社会福祉士。
国立武蔵野学院 附属児童自立支援専門員養成所(厚生労働省)講師
専門分野は、こども食堂の継続、生活困窮者支援、精神科グループワーク、援助者のストレスケア。
全国学生こども食堂ネットワーク事務局共同代表、こども食堂学生ボランティアスタートアップ講座等。

https://researchmap.jp/g0000218044
https://twitter.com/misekiy

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