【愛と哀しみの埼玉の歴史】原点は「消費者第一」ー小川町発祥・しまむら70周年<3>

比企郡小川町発祥のしまむら(さいたま市大宮区北袋町、鈴木誠代表取締役)は、独自のオペレーション体制構築や店舗開発および多業態展開の推進により、全都道府県で系列2,200店超の展開に成功した。

締めくくりに、同社の近年の動向やサステナビリティに関する取組などを紹介する。

海外も重要拠点

郊外部を中心に国内で積極的に出店を行ってきた同社だが、1997年には台湾・桃園市に子会社の思夢樂股份有限公司を設立。翌年には思夢樂の1号店を平鎮市に開設し、海外展開にも乗り出した。台湾においてはパジャマを着なかったり家具のサイズが日本よりも大きいなどの文化習慣の違いもあるが、現在思夢樂は台湾で40店舗が営業している。その拡大の背景には、埼玉発で培ってきたオペレーション体制や店舗開発戦略が作用していたことは言うまでもない。

2011年には続く海外展開として、中国・上海市に子会社飾夢楽(上海)商貿有限公司を設立。翌2012年には上海市に1号店を開いた。北京など中国本土で8店舗にまで拡大したが、新型コロナウイルス感染症の拡大から2020年をもって全店閉店となった。

しかし同社にとっても中国は重要な拠点で、国内で行っていた商品の仕分けや値札付けなどの流通加工をコストの安い上海や青島の物流業社に依頼している。こうして船積みされ日本へ着いたコンテナは、仕入先の物流センターを通さず直接同社商品センターに納品される。結果的に物流コストの削減が図れ、同社の低価格路線に貢献している。

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目指すは「いい会社」

近年の同社は、持続可能な社会の実現のため、社員・消費者・取引先・株主・社会にとって「いい会社」を造ることをミッションとし、本業を通じて持続可能な同社流のESG対応を推進している。

廃棄ゼロ・循環でサステナブルを

その一環で、環境に関する取組が「しまエコ」だ。

商品陳列用プラスチックハンガーはレジで回収して同社商品センターで圧縮。リサイクル業者の手に渡ってペレット状にされると、再度店舗で使用するハンガーにリサイクル。プラスチックごみの削減を実現している。また、同社系列店では再利用に向けてレジ袋の回収を消費者に呼びかけ。デポジットのように、レジ袋を持参した消費者には1枚につき1円が支払われる。

商品についても、最後の1枚まで売り切ることが基本。バイヤーが過去の実績から売上計画を予測し、必要な仕入数量を綿密に計算して過剰発注を防止。店頭においても在庫管理を担当するコントローラーが毎週全店舗の商品動向を分析。商品の移送や適切な値下げなどにより、売上計画に必要な各店舗の在庫数量を綿密に管理している。

商品開発として、オーガニックコットンを用いた「ここちラボ」や裁断くずを再紡績したリサイクル生地を用いた「REECOTTE by ROOPS」など、環境負荷の低いものを開発している。こうした商品のパッケージには「しまエコ」マークもあしらわれる。

他にも、商品配送にEVや貨物列車などCO2排出量の低い交通機関の利用や、店内でのLED照明採用なども行っている。

誰もが活躍できる会社へ

先述した通り、古くより同社では社員にとってもいい会社として人事面でも様々な取組を行い、モラール向上や社員の創造性発揮につなげている。

社員の9割が女性ゆえ、育児・介護休暇制度など仕事と育児・介護を両立しながら働く社員を支援する制度を整備。また、正社員の場合は社員本人の「ホームベース(生活の本拠とする住所)」を最大限考慮した配属を行なっている。こうした取組を通じて2024年2月までに女性管理職比率を20%以上にすることを目標としている。

障がい者雇用についても積極的で、今年2月現在で703名が勤務。障がい者雇用率は4.17%と、法定雇用率2.3%を上回っている。

消費者ともつながる会社

創業以来の姿勢として、同社は消費者にとってもいい会社を追求。

その一環として行われているのが「しまパト」。消費者が同社系列店舗で見つけた掘り出し物の写真をInstagramやTwitterなどのSNSで「#しまパト」のハッシュタグとともに投稿すると、同社HPなどでもその投稿を紹介。同社商品を愛用する「しまラー」にとってはうれしい取組だ。

また、2020年からは同社独自のECも始め、店舗が近くにない消費者のニーズに対応。2021年からは高齢者や過疎地域の住民に買い物の機会を提供するため、介護施設・病院・過疎地域への出張販売を試験的に実施している。

他にもしまむらアプリを展開して、消費者との関係性を深めている。

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埼玉発、挑戦は続く

かくして海外にも飛び出し日本を代表する総合衣料品チェーンとなった同社だが、本社は一貫して埼玉。業務の増大に対処するため、1982年に本社を東松山市駅前ショッピングセンターから大宮市(現:さいたま市北区)宮原町に移設。1998年には同地に本社ビルも竣工した。

そして2021年3月、更なる業容拡大と効率運営を追求し、さいたま新都心・バスターミナル隣(さいたま市大宮区北袋町)に新本社ビルを竣工し本社を移設。同ビルに隣接して、旗艦店となるさいたま新都心ファッションモール(ファッションセンターしまむら・アベイル・バースデイ)も開店した。

先日発表された同社70期目となる2023年2月期決算では、連結売上高は前期比5.6%増の6,161億円と過去最高、連結営業利益についても同7.9%増の533億円で過去最高となった。天候の関係で夏物・冬物が好調で、商品力と販売力の強化を推し進め、広告宣伝費や賃借料など、経費も抑制できた結果と説明されている。

2030年までの同社長期経営ビジョンでは、売上高8,000億円以上・営業利益率10%が目標。既存店の伸⻑と積極的な出店により商圏シェアを拡大するとともに、地域の消費者に対してわくわくする商品とサービスを提供、日々の暮らしに楽しさを届けていくとしている。

今以上にいい会社を追求していく同社の挑戦は、「小京都」の小川町から東松山市を経て大宮と、いつも埼玉から始まるのだ。

おわり

参考文献

  • 小川孔輔(2011)『しまむらとヤオコー 小さな町が生んだ2大小売チェーン』小学館.
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