「麦王」の存在あってこそー埼玉が麦の一大産地になった訳

武蔵野うどん、五家宝、ゼリーフライ、麦わら帽子ー埼玉の名物グルメや名産品を挙げたが、これらにはある共通点がある。いずれも麦を使用している点だ。

麦の生産というと広大な北海道のイメージも強いかもしれないが、実は埼玉の小麦収穫量は全国でも上位10位に入っている。

気候や消費地に近いなど地理的理由もありながら、その裏には歴史的人物の存在もあるようだ。

小麦年間約2万トンを収穫

農林水産省が昨年11月に発表した2022年度産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量の統計によると、全国における小麦の収穫量は987,600tで、前年度比約10%減となった。このうち約6割となる600,000tを北海道で生産している。

そんな中で、埼玉における小麦収穫量は19,000tで、これは全都道府県において9位となる。同じ関東でも群馬が約3,000t上回って一つ上位につけるが、関東はもとより国内有数の麦どころといえる。

作付面積を見ても5,290haで全国8位につけている。収穫量は前年度比5%減だが作付面積は同4%増となっており、生産自体は増えつつあるといえる。

快晴日数や乾燥が肝?ー気候的理由

一般的に小麦の生産は、年間降水量が1000mm以下の場所で向いていると言われる。ある程度乾燥した場所が好まれるようだ。気象庁の統計によると、ここ10年の埼玉における年間降水量は1,300mm前後で推移している。そうなると必ずしも条件に合致している訳ではないが、それを補って余りある理由があるのかもしれない。

例えば快晴日数が全国上位にあることが挙げられる。年度にもよるが全国的に見ても埼玉は快晴日数が多いことで知られ、その度に小麦が受ける日照量や日照時間も多くなることが考えられる。

年間降水量も条件よりは高いものの、例えばゲリラ豪雨などにより1回あたり降水量が増えることも考えられ、内陸県にある分乾燥しがちな気候ではある。この点は同じく収穫量上位につける群馬にもいえることだろう。

平地が多く消費者近いー地理的理由

埼玉の地勢も関係していそうだ。

県土に占める平地の割合は約61%で、この数値は全国的にも高い。栽培に適した土地が多いことで作付面積も広く取ることができる。また、河川が県土に占める割合も高いため、栽培に必要な水もすぐ入手できる。栽培に適した環境が整っているといえよう。

そして収穫した小麦についても、全国5位の人口に代表される巨大な市場に対してすぐに供給することができる。地域消費者の需要に合わせて生産ができる点も大きいだろう。

ちなみに東京における小麦収穫量は12t、千葉についても739tと埼玉の収穫量には遠く及んでいない。同じ地域内だけでなく、地域外にも埼玉産の小麦が供給されている可能性は高そうだ。

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近代麦作の礎築いた「麦王」

(熊谷デジタルミュージアムより)

古くより麦作が行われてきた埼玉であるが、その発展の裏には武蔵国東別府村(現:熊谷市)出身の「麦王」こと権田愛三(1850〜1928)の存在もある。

江戸末期に生まれた権田は1872(明治4)年に開誘社を創立。肥料と藍の栽培を契機に農業の改良に努めた。

次第に麦の生産に注力し、麦の収量を4~5倍も増加させる多収栽培方法を開発。麦の根元をしっかりさせ倒伏を防止する「土入れ」をはじめ、麦の茎の枝分かれと根部の伸長を促す「麦踏み」や堆肥をふんだんに使った「土づくり」や二毛作などを提唱。1909年にはこれら開発した農法を「実験麦作改良書」にまとめ、全国より視察を受け入れた。

その功績から緑綬褒章なども贈られ、「麦王」の愛称で親しまれている。

権田の死後90年が経過したが、その出身地である熊谷市は今でも県内有数の麦どころとして名高い。権田の遺伝子が地域において受け継がれているといえよう。

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