【埼事記 2023/4/2】桜散り始め 命育み命ある樹木の役割考える

■「樹木を植えて、30年たたなければ材木にはならない。だからこそ後世のために木を植えるのだ。今日用いる材木は、昔の人が植えたものだとすれば、どうして後世の人のために植えないでよかろうか」

薪を背負った幼少期の姿で知られる江戸時代後期の農政家・二宮尊徳(1987〜1856)の言葉だ。

地元である小田原の農林振興に長く携わり飢饉への対応も多く行っていたが、一時的にしのぐではなく後世のことを考えて各種施策にあたっていたのかもしれない。その中でも植樹というのは後世に遺産を残すという意味でも大切に捉えていたようだ。

■寒い冬を越えて咲いた桜が散り始めている。

例年以上に寒い冬で休眠打破は遅かったが、気温の上昇とともに一気に開花。熊谷でも3/17に開花を観測し、平年比で10日昨年比でも7日早い開花となった。その後は春らしく雨続きで満足に桜を見ることも叶わない日々が続いたが、先週の卒業式シーズンには満開。県内有数の桜の名所である大宮公園も花見客で賑わっている。

卯月に入り始めて散り始め、風が吹くとふわっと桜吹雪が舞っている。葉桜とはなったが、水面に落ちた花びらがこれまた美しい。少しピークは早かったが、最後の最後まで楽しませてくれている。

■ところで再来年2025年春、秩父市と小鹿野町の秩父ミューズパークを中心に第75回全国植樹祭が開催される。森林資源の有効活用を呼びかけるべく開催されているが、埼玉においては実に66年ぶりの開催となる。同大会のテーマも「人・森・川 つなげ未来へ 彩の国」に決定し、県に暮らす「人」が、植樹によって「森」を育み、森林から流れ出る「川」によって人々の生活が潤される営みを「未来」のこどもたちにつないでいこうという強い思いが現れている。

桜もそうだが、樹木という存在は我々の生活や生態系維持にとっても欠かせないものになっている。桜の花や紅葉を楽しむだけでなく、材木として住環境を提供したり、木箱や紙などの道具になったり、土砂災害を防いだり、鳥や虫や小動物の住処となり食物を提供したりと。その働きは、社会や生態系におけるあらゆる点に及んでいる。

■海がない埼玉にとっても、樹木は欠かせない資源だ。

例えば飯能市や日高市周辺のスギやヒノキの総称となる西川材がある。同材は木材として江戸時代より使われ、川を伝って火災に見舞われた江戸の復興に大きく貢献してきた。現在でも建築資材に使用する住宅メーカーなども多く、輸入木材価格高騰に伴ってその価値も見直されつつある。県としても利用促進へ向けて補助などを出す予定だ。

また、桐を用いた特産品も埼玉には多い。春日部の桐たんすや桐箱、岩槻人形など桐の木を多く利用している。必ずしも埼玉産の桐を使用しているわけではないようだが、そうした木材を扱う事業が産業として古くより存在するのは無視できない。もっと言うと盆栽の生産が盛んな大宮盆栽村や川口市安行地区も、そうした産業が発展した地域として知られる。

そして忘れてはいけないのは、県の木でもあるケヤキ。国道463号線の北浦和駅入口交差点から所沢市の西新井町交差点に及ぶ17kmのケヤキ並木は「日本一長いケヤキ並木」として有名だ。さいたま新都心のけやきひろばと、所々にケヤキの木があしらわれているのも特徴だ。

■近年では林業の担い手も少なくなり放置森林の増加も問題になる中、特に秩父地域では同地域に移住して林業や間伐材を用いた事業を始める者も少なからずいる。先に述べたように、樹木という存在は我々人間だけでなく森林にくらす動植物やその周辺環境にとっても大きな役割を果たしている。

岩石や水といった天然資源は簡単に人間が作り出したりコントロールできるものでもないが、樹木については植樹などを通じてある程度コントロールができる。1本の樹木としても、そこから得られる価値は無限大だ。

伐採され木材になったとしてもその強さは途切れることない。奈良の法隆寺五重塔は奈良時代から1400年も建っており、世界最古の木造建築になっていることはよく知られている。石造やコンクリート建築だとどうしても雨風にさらされることで劣化が生じるが、樹木は手入れをしっかりすれば長持ちする。無機物の石やコンクリートと異なり、樹木は植物という有機物だ。やはり命ある樹木というのは、そう簡単にやられはしないということなのか。

■「僕の仕事は木に向かい合うっていうのは当然なんですけども、それと合わせて地域の人達とも、向かい合うという事が仕事を進める上では、すごくポイントになっています」

樹木医の和田博幸氏の言葉である。

樹木があるところに人がいて、人が集まることで地域が生まれる。一人一人の命ではなく、地域を形成するという点でも樹木の役割は大きいようだ。

葉桜も目立つが、ここからは新緑の季節だ。明日からは新たな環境に身を投じる者も少なくなかろう。

木々の緑や力を感じて、我々も根深く力強く生きていこうではないか。

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