【埼事記 2022/12/18】所沢市での汚染土再利用 然るべき情報共有・管理を

■「われわれを吹きまくるこの混沌たる大衆の風評や意見の中に、一つでもとるに足る道を定めることはできない。こんなに浮動して定めないものを目標にすることはやめようではないか。いつも変わることなく、理性に従ってゆこうではないか。その上で、大衆の称讃がついて来るなら来させるがよい。称讃はすべて運命に左右されるから、運命以外のものから期待することは許されない。」

16世紀ルネサンス期に生きたフランスの哲学者・モンテーニュ(1533〜1592)が著者「エセー」で記した一節である。

なるほど、大衆の風評より最後は理性が勝るということか。本能でなく理性で生きる人間だからこそ、諸々の思考を巡らせた上での理性は、生きていく上で最良かつ最後の判断材料になるということであろう。

■しかし、悲しいかな。現実では風評が時としてあらぬ事態を生むこともある。

20年以上前に「トトロの森」でもおなじみの所沢市の野菜が「危険」とされる出来事があった。

1999年にテレビ朝日系列の報道番組が同市で栽培された葉物野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたと報道し、スーパーなどで同市野菜の販売が停止され価格も急下降した。埼玉県や農協なども調査したところ、実際は見かけ上のダイオキシン量が多い煎茶を測定したもので葉物野菜から健康被害のある高濃度のダイオキシンは検出されなかったことがわかった。

それでも同市や県産野菜は「危険」というイメージがつき、小売店での販売再開も慎重だった。これを受けて同市農家も、同局や番組内で濃度測定を行なった企業を提訴する騒動に発展している。

■風評被害と呼ばれる騒動であったが、20年以上の時を経てまたも不穏な空気が漂っている。

東日本大震災に伴う福島第一原発事故で放射能が流出し、周辺の土壌が多く汚染された。こうした汚染土の再利用を推進する環境省で福島県外においてその実証を進める動きがあり、その場所の一つに同市の環境調査研修所があがっている。同所敷地内に放射性セシウム濃度の低い汚染土20立方メートルを運び込んで空間の放射線量を調査することになっているが、同所は住宅地にも近い。

その一方で、地域住民に対する周知や説明は十分になされているとは言いがたい。先日12/16に開催された住民向け説明会も定員を絞っての開催だった。市内でも今月になって知ったという者も多いという。ダイオキシン騒動もあって地域住民からの反発も強く、その理解を得られるかは不透明だ。

■汚染土の再利用実証という点では意義ある取り組みではあり、やる価値はあるように思われる。

ただ、情報共有の仕方に問題がある気がしてならない。仮に実証が失敗して周囲の放射線量が上がってしまったら、どう落とし前をつけるのか。少なからぬ健康被害や環境への影響も起きえよう。1年2年で解決するものでなく数十年百年続く問題になるかもしれない。

再利用を進めたい気持ちはわかるが、やはり地域の理解があってこそだ。そのためには然るべき情報は共有すべきだが、なぜこうも一方的に決め込んでしまったのか。進んで近づこうという者はいないだろうが、実証を行う同所敷地も一般非公開という。その点でも地域住民に情報が開かれた形になってないと痛感させられる。

資料に書かれていることをただ棒読みして情報共有した気になるのではなく、しっかり地域の理解承諾を得ることも欠かせない。ともすれば地域住民にとってもなんらかの害が出かねないことだけに、一方通行で進めることは許されない。

■情報共有はもちろん、正しい情報が行き渡るよう情報管理も重要だ。

先のダイオキシン騒動では誤った情報が流れたことで多大な損害が生じた。もし同所から放射性物質が漏れたなどのデマが流れたら、またも同騒動が起きかねない。そうならないよう、誤った情報を流さず誤解を生じうる情報については慎重に共有すべきだ。

いざそうなってしまった場合を考慮して、早急に火消しができる体制も整えていないといけない。

いずれにしても、正しい情報を常にオープンにして地域に判断材料を渡さない限り、理解を得るのは難しいだろう。

■「情報共有の手段を改良するだけで、人々の人生を変えることができる」

Facebookを創業したマーク・ザッカーバーグ氏の言葉である。

正しい情報を然るべきやり方で共有しないとこの状況は変わらないし、地域の不安も高まってしまう。同省にはこのことを肝に銘じて、信頼獲得に努めていただきたい。

そして、我々市民としても、同市を放射性物質やダイオキシンと狭い側面で捉えるのではなく、一続きの武蔵野の街として捉えていくようにしよう。「トトロの森」はじめ、由緒ある武蔵野は我々で守り発展させなければならない。

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