【埼事記 2022/11/4】韓国群衆事故 「密ボケ」注意しハレの日を

■「この人生を簡単に、そして安楽に過ごしていきたいというのか。だったら、常に群れてやまない人々の中に混じるがいい。そして、いつも群衆と一緒につるんで、ついには自分というものを忘れ去って生きていくがいい」

ドイツ・プロイセン王国出身で実存主義の代表的な思想家とされるフリードリヒ・ニーチェ(1844〜1900)の言葉である。人は一人で生きていくことは難しいが、群衆の中にいるとその判断や意思を周囲に委ねることができ気楽だ。ただ、群衆の中にいるからこそ自我を忘れることもありうる。そのようなメッセージを投げていると捉えられる。

■ハロウィンで沸いた先月末、お隣の韓国で凄惨な事故が起きた。ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で多くの人々で溢れるハロウィンイベント中に群衆雪崩が発生。300人以上が折り重なって倒れ、156人が死亡した。

このうち邦人の犠牲者も2人おり、うち1人は川口市出身の10代女性だった。地域から犠牲者が出たことは大変遺憾であり、冥福を祈らずにはいられない。

原因は調査中だが、必要な警備人員が配置されていなかったなど、現地当局の警備体制の不備が指摘されている。

■同様の事故が2001年に兵庫県明石市でも起きており、それと重ねた者も多いのではないだろうか。

ここ3年のコロナ禍で密を避ける生活スタイルがすっかり定着し、皆でどこかで集まるという機会は激減した。しかし、アフターコロナを見据えて徐々にイベントなども再開しており、日本においても渋谷でも同様にハロウィンの夜に多くの者が集まった。この週末もさいたまクリテリウムや北区民まつりなど大宮地域でも大型イベントが予定されている。

韓国でのハロウィンイベントも3年ぶりの開催だったというが、どうもイベントが少なかっただけに我々も「密ボケ」している気がしてならない。警備体制を万全にするに越したことはないが、事故のリスクというのは常に存在する。まして、イベントが徐々に再開してきている状況だけに、再発を許してはいけない。

警備体制の充実はもちろんだが、我々自身も群衆の性質をよく知り「密ボケ」を克服しないといけない。

■フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボン(1841〜1931)は群衆心理という本を記している。

フランス革命の中心に立ち文明に対する脅威ともなった群衆について、ル・ボンは道徳性が低下しているとした。すなわち、群衆に混ざることで個人の責任感は薄まるため衝動的かつ非道徳な行動をしやすくなる。そして個人の責任感や個性が薄まるため、思慮深い人間であっても思考が単純になりがちだ。

それゆえ、暗示もにかかりやすくなる。一度デマなどが飛ぶと正確な判断力が失われパニックに陥りやすい。加えて、感情的な動揺も激しくなり興奮状態に陥りやすくなる。

柳田國男は日本人の伝統的価値観として「ハレとケ」を提唱したが、ハロウィンや区民まつりといったイベントは非日常たる「ハレ」である。そういう時こそ羽目を外したくなるというのが人間の常だろう。

そんな時に群衆に加わるとどうなるか。無意識のうちにこれら群衆の心理に足を突っ込んで、いらぬことをしてしまうかもしれない。そしてデマが流れて一つの方向に殺到し、韓国の事故の二の舞になったら、目も当てられない。

■厳しいことは書いたが、いかに群衆というものが特異なものか理解できただろうか。そこに「ハレ」の要素が加われば、もはや未知の領域である。「密ボケ」に陥っているからこそ、今一度群衆の性質については頭に入れたほうがいい。

いずれにしても、「ハレ」を楽しむことが第一ではあるが、しっかり自分の身を自分で守ることを心がけていただきたい。

小紙とて地域のイベントの告知などを配信しているが、もしもそのイベントで事故が起きた際には小紙もその責任があると言えなくもなかろう。そうなってしまっては遅いのだ。

なんにせよ、木々も色づきはじめ出かけるにはうってつけの季節となった。日々の雑踏を忘れるためにも自身の知見を深めるためにも、外に出て人々と触れ合おう。

もちろん、まだコロナ禍であるだけに密になりすぎないよう気をつけよう。

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