【埼事記 2022/10/27】賛否二極の安倍氏国葬 もっと褒めよう日本人

■「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

真珠湾攻撃などで指揮をとり太平洋戦争時に活躍した海軍軍人の山本五十六(1884〜1943)の言葉である。政治的視野にも優れた戦術眼には多くの軍人も賛同し、海軍甲事件で死去した際には平民出身ながら初めて国葬が執り行われている。

上記の言葉も、教育現場における格言として扱われることも多い。

■我が国を賛成と反対の二極に分断した国葬から1ヶ月となる。

参院選真っ只中の7/8、同氏が繋がりのあったとされる旧統一教会信者宅の男性が演説中の同氏を銃撃。延命措置の甲斐なく永眠した。同氏死去を受け、岸田文雄首相は「内閣府設置法に基づく閣議決定を根拠に」国葬の実施を表明。1967年の吉田茂元首相以来55年ぶりの国葬となったが、国民に喪を服すことは求めなかった。

しかし、同国葬が決まると各方面から非難が相次いだ。旧統一教会との繋がりや国費支出への非難、とりわけ「安倍氏が国葬に値する功績を残せたか」という非難が目立った。大手マスメディアの世論調査ではゆうに半数超が同国葬に反対を示したという。

そのような中で9/27に同国葬は行われたが、反対のデモ行進はあっても同氏への献花には3km近い長蛇の列もできた。

■たしかに同氏には森友学園事件や桜を見る会などの疑惑もあり、真相は未解明だ。加えて昨今のコロナ禍で財政も逼迫しており、不用意な国費支出は避けるべきだ。

しかし、我々が選出した元為政者に功績がないと非難轟々は如何なものか。

いうまでもなく安倍氏の通算在任期間は3188日と約8年超であり、これは歴代首相では最長だ。平均で2年前後というからその長さは際立っている。

実際の功績という面でも、例えば再任直後には三本の矢を含むアベノミクスを打ち出し実際に景気回復を成し遂げている。また、汚職事件が取りざたされているものの、東京五輪や大阪万博といった国際的イベント招致にも手腕を振るった。外交面でも自由で開かれたインド太平洋戦略を打ち出し、日本を中心とした太平洋外交戦略を推進し、米国など各国からの評価もある。

拉致問題解決など具体的な功績としては見えづらいが、第1次政権での反省のもと行動力を持って様々に挑戦したのは事実だ。

■9月には英国・エリザベス女王が死去しこちらも国葬が執り行われた。同国葬に比してこちらを「本当の国葬」と呼ぶ者も多い。

しかし、両者国葬を比べること自体がナンセンスだ。同女王は王家という血筋で女王になったが、同氏の場合は我々市民による選挙を経て首相になっている。間接民主制ではあるものの、元をたどれば我々と同じ平民なのだ。

出自が同じで自らが選出したリーダーをこれでもかと死体蹴りする。自己否定とも言え見るに耐えない。革命後の仏国やルーマニアのチャウシェスク氏のように、古い為政者は処刑にでもしないと気が済まないというのか。

■根本原因には「褒めは悪徳」という日本人の意識があるような気がしてならない。とかく我々日本人は日常生活で褒めることをあまり意識しない。

海外では飛行機のアナウンスにも最後に「Thank you」とつくが、日常生活で「いつもありがとう」と他者に言う機会は我々にどれだけあろうか。また、「3年で一人前」や我慢比べという言葉があるように、理不尽なことでも我慢することが美徳という風潮も根強い。部活動での厳しい指導にも繋がり社会問題になっていたが、多様化に伴いそのような価値観が結局通用し得ないのは皆が見てきたことだ。

翻って台湾では同氏を称賛し、銅像も建てられている。当の日本人である我々はいつまで自己否定を続けるか。

ハースバーグの二要因理論のように、人を動かすのは金銭など具体的対価である衛生要因の他に自己実現や評価というような動機付け要因がある。褒めるということは後者に直結し、後者がなければ人が動くことはない。自らが選んだリーダーを貶してばかりでは、果たしてそのリーダーは動く気になろうか。

その点上記の山本の言葉は人の本質を捉えており、教訓とすべきだ。

■法的根拠のない国葬の実施であったが、半世紀にもわたり行われていなかった国葬を実施しそのあり方に一石を投じた岸田首相にとってはこのことも功績だったと言える。

首相経験者の葬儀は国と所属政党による合同葬が主流だったが、例えば細川護煕氏のように所属政党が解散したり村山富市氏のように党勢が小さい経験者もいる。加えて2009年以来の旧民主党政権での経験者の扱いも不透明だ。党として難しいのであれば国葬という選択肢もあるのではないか。

逆に国葬というパンドラの箱を開けたからこそ、そうした課題にも対処していけるか。引き続き目を光らせよう。

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