【埼事記 2020/11/23】止まらぬ鬼滅の刃旋風 地域の文化を見直そう

■残り日数も数えるほどだが、今年2020年は同ウイルスにより我が国の文化は大きな打撃を受けた。来年に延期が決まった東京五輪が際たるもので、さいたま国際芸術祭や大宮十日市など中止や延期を余儀なくされた文化行事も数多い。

■しかし、そのような中で列島に「全集中」旋風が吹き荒れている。週刊少年ジャンプに掲載された吾峠呼世晴氏の漫画「鬼滅の刃」だ。

同作は100年前の大正時代を舞台に、鬼に両親を殺され妹を鬼化された主人公が妹を元の人間に戻すために鬼と闘う和風アクション漫画になる。

昨年にはテレビアニメ化されたが、ストーリーはもちろん美しいビジョンで一大ブームを起こした同作。年は明けたもののその勢いは衰えること無く、今年10月にはテレビアニメの続編映画「無限列車編」が公開され、興行収入も200億円を超える勢いだ。

■止まらぬブームの中で、同作人物名がついた寺社や作中場面を彷彿とさせる旅館などへの「聖地巡礼」を行う者も多い。

同作人物の羽織の模様をあしらった商品も多数流通している。

その中でも大正時代の日本を舞台にした和風アクションということもあり、伝統産業でも同作にあやかった商品が生み出されている。岡山・倉敷の高田織物が同作人物の羽織模様を配した畳縁を開発・販売したり、三州鬼瓦工芸品で有名な愛知・高浜では同作とコラボした瓦レリーフも開発されている。

■日本刀をはじめ着物や神楽や寺社など、作中至る所で和の文化が表現されている同作。近くにある人や物に興味を持ちがちなることを心理学では近接効果というが、繰り返し同作に出てくる和文化を見ることで、それに興味を抱きもっと知りたくなるということも十分に起きよう。

畳や着物など全国的に広く普及している文化事物もあるが、それらは地域ごとに異なる特性を持っている。北国であれば保温性を高め南国であれば通気性を高めといった具合だ。そして近代的商品ではないため量産が難しく、手作業による少量生産が占める割合が多い。それゆえ和文化の担い手も各地域の人々が務めていることが往往にしてある。

■作中の大正時代と異なり、現代社会では洋装化が進んで街中で着物を着る者もほとんど見かけない。畳がない家も珍しくないことだろう。

小生にも言えることだが、どうも和文化というとこのようなきっかけがないと意識しないということが多い。

祭りなどの中止によりこのコロナ禍で地域の和文化も少なからぬ被害を受けている。アニメ・漫画も立派なジャパンカルチャーの一つではあるが、ひとつこれを契機に和文化全般はもちろん各人の地域における文化を見つめ直して見てはどうだろう。

外国人が和文化に触れてそのすごさをPRするテレビ番組がよく放送されている。そのような番組はいらないという声も多く出ているが、肝心の我々は自らの文化にどれだけ触れているだろうか。

井の中の蛙になりかけている我々に自らの文化とは何かという問いや興味を改めて起こさせた点で、同作は特徴的だと感じる。

■文化はだいぶ変わったが、作中で描かれている大正時代も関東大震災などの自然災害やスペイン風邪が流行り人々の不安が増大して米騒動に発展したりと、コロナや自然災害に喘ぐ現代社会に似ている。

100年近く経った今、我々は未知なる「鬼」とどう戦うか。文化という「刀」がひとつ武器になるのかもしれない。

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