【日々是埼玉 2020/5/6】原爆の記憶を後世にー原爆の図丸木美術館に緊急支援呼びかけ

太平洋戦争の終戦、そして原子爆弾投下から今年で75年となる。

原爆の図丸木美術館(東松山市下唐子)は、世界で初めて核兵器が使用された広島での原爆投下の惨状を描いた「原爆の図」を展示している。しかし新型コロナウイルスの影響で入館料収入が減少し、同絵画を虫害から防ぐための新館建設計画が暗礁に乗りかけている。

皮肉にも原爆投下75年目となる今年に存亡の危機に立たされた同館だが、存続に向けて支援の動きが出始めている。

原爆の図丸木美術館の紹介

丸木夫妻について

 (同館HPより)

同館名の丸木の由来は、画家の丸木位里(1901〜1995、写真左)・丸木俊(1912〜2000、写真右)夫妻。

夫の位里氏は広島県安佐郡飯室村(現・広島市安佐北区)出身で、75年前の広島原爆投下時は俊氏とともに浦和へ疎開していた。しかし広島に住む親族の身を案じて、投下直後の広島へ赴き救援活動にあたった。

この経験をもとに、夫婦共同で後述する原爆の図を1950年以降30年に渡って描き上げた。

両氏による原爆を描いた絵画は絵本「ピカドン」にもなっている。1950年の刊行以降幾度となく再販され、学校図書館に置かれて平和学習に使用される機会も多い。

開館の経緯

1966年に同市に移住した丸木夫妻。

翌年にその製作絵画などを展示するために開館させたのが同館だ。この地に美術館を建てたのは、そばを流れる都幾川が位里氏の故郷である太田川の風景に似ていたためであったという。

以降も同市に在住して創作活動を継続しノーベル平和賞候補にも選ばれた丸木夫妻。位里氏は1995年に、俊氏は2000年にそれぞれ亡くなっている。

なお同市には埼玉県平和資料館もあり、そちらでは県内における戦争資料を展示している。(5/31まで臨時休館中)

収蔵資料について

同館においては夫妻制作の絵画のうち、原爆の図や南京大虐殺の図や水俣の図、さらに位里氏の母・丸木スマ氏の絵画などが常設で展示されている。

原爆に限らず絵画という枠組みで社会を捉え、その様相や人々の思いを写実的に伝える作品が多いのが特徴だ。

原爆の図

(同館HPより、「第二部・火」)

数ある所蔵資料の中でも一際目を引くのが、夫妻の代表作である原爆の図。

「第一部・幽霊」にはじまり「第二部・火」や「第三部・水」などと15部に渡って原爆投下直後の広島の人々を描いている。1950年の発表以降完成までに足掛け30年以上かかっている。

なお最終章で長崎への原爆投下を描いた「第十五部・長崎」は長崎原爆資料館に所蔵されており、同館で所蔵するのは第一部〜第十四部までの14点となる。

国内外で出張展示されることも多く、中国や原爆投下国であるアメリカでも展示経歴がある。

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同館を取り巻く事情

新館建設計画が暗礁に

開館以来原爆の図を通じて原爆の恐ろしさや被爆者の苦しみを伝えてきた同館。

しかし、近年ではある深刻な問題を抱えていた。

同美術館学芸員の岡村幸宣(ゆきのり)さん(45)によると、開館から五十年余りを経て、作品は紫外線や虫害による傷みが進み、常設展示を続けることも難しくなっている。

「戦後七十年以上が経過して、戦争体験者・被爆者が年々減っていく中で、原爆の記憶を後世に伝える美術館の意義はより増している」との思いから、温度や湿度を管理できる新館建設を目指し、二〇一七年に「原爆の図保存基金」を設立して建設資金を募ってきた。

 〜中略〜

五月から始める予定だった米国でのクラウドファンディングの立ち上げも、ニューヨークを中心とした感染拡大の影響で、開始時期の再検討を余儀なくされているという。

これまで同美術館の「友の会」(約千六百人)の会員からの寄付に頼ってきた運営を、原爆の図に対する評価が高い海外に広げる転換の試みだった。

(「<新型コロナ>「原爆の図」記憶継承に黄信号 東松山、丸木美術館の新館計画」 東京新聞 2020/4/24)

制作後70年近くが経過した原爆の図だが、近年では紫外線や虫害の影響で損傷が進んでいた。

このため温度・湿度管理ができる新館建設を目指して、2017年より基金を設立して建設資金を募っていた。3億円規模の同計画だが、昨年までに1億円を集めた。

今月からは同絵画の評価が高いアメリカでのクラウドファンディングを目指した。しかし、同国における感染拡大により実施の再検討を余儀なくされている。

悲願の新館建設が暗礁に乗り上げた格好だ。

新型コロナによる収入激減

さらなる苦境が追い討ちをかけた。

被爆の惨状を描いた丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻の連作「原爆の図」を所蔵する「原爆の図丸木美術館」(埼玉県東松山市)が、存続のために緊急の寄付を呼びかけている。

コロナ禍で多くの文化施設が休館する中、行政や企業からの大きな助成のない私設の同美術館は、休館による減収で運営が厳しくなっているという。

〜中略〜

 運営経費は年間約2500万円。年間約1千万円の入館料収入や、友の会会費、作品の貸出料、寄付などでまかなってきた。

しかし、新型コロナウイルスの影響で先月9日から臨時休館し、入館料収入はゼロに。

学校などの団体予約はすべてキャンセルになり、作品の貸し出しや巡回展も中止や延期になった。

(「コロナで運営厳しく 原爆の図丸木美術館が寄付呼びかけ」 朝日新聞 2020/5/3)

年間約2500万円の運営経費を要する同館で入館料収入は約1,000万円と大きな比率を占めているが、新型コロナウイルスの影響で4/9より臨時休館に入り現時点での今年度の入館料収入がゼロとなった。

学校など団体予約も軒並みキャンセルで作品貸し出しも中止や延期を余儀なくされ、大きな収入源が絶たれてしまった。

開館記念日だった昨日5/5は新館建設プロジェクトを発表するなどの予定だったが、臨時休館に伴い開館以来初めて閉館という異例の事態となった。

同館は公益財団法人が運営する私設美術館であり、行政による助成金も見込めない。緊急事態宣言延長に伴い、今後も臨時休館が延長されこの苦境が長引く可能性が高い。

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