(文化遺産オンラインより)
政府の文化審議会は1/15に文化財分科会を開催し、上尾市の摘田 ・畑作用具を国重要有形民俗文化財に指定するよう文部科学大臣への答申を行った。同用具は近日中に行われる官報告示を経て、重要有形民俗文化財に指定される見込みだ。
埼玉県内の重要有形民俗文化財は9件となるが、同市では初となる。
上尾市の摘田 ・畑作用具について
文化財概要・登録への経緯
(文化遺産オンラインより)
今回指定された同用具は、同市台地部において1960年代まで行われた稲の直播き栽培である摘田と、麦やサツマイモなどの畑作に使用された農耕用具の資料群750点 。同市が1980年より収集を進めてきたもので、摘田用具・畑作用具共に耕起から脱穀調整までの一連の作業に使われた用具を揃えている。
このうちの521点は2016年に有形民俗文化財に登録されている。
重要有形民俗文化財は「衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術およびこれらに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で、我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」とされている。その中でも同用具は台地上の農業経営や畑作地域における稲作の地域的な様相を知ることができるコレクションであり、日本の稲栽培や農耕文化を理解する上で特に重要であると評価を受け、今回の答申に至ったという。
県内文化財の指定は2年連続。
摘田とは
摘田とは、田植えではなく直播きした種籾を育てる稲作法で、関東から九州まで広く行われていた。特に用水路が整備されていない台地辺縁部の谷の低湿地で行われてきた。
日本在来の稲作栽培法とされているが、水田開発や農業技術の進歩によってすでに消滅している。
そのような中でも大宮台地辺縁部に位置する同市域では、農業は水はけの良い土壌の特性を生かした畑作を基本とし、稲作は低湿地での摘田が伝統的に継承されてきた。田摘みの時期が5月と同じく栽培されていた大麦や小麦の種を蒔く6月に被らないため、生産暦でも都合が良かった。
10平方メートル当たり約1俵の米が採れるが、用水路の整備が整備される1960年代までと全国でも最も遅く摘田が行われていた。
摘田用具の紹介
摘田は播種の際の畝引きの作業やなどの特徴的な作業がある。それゆえ田づくりからはじまり播種や除草施肥や収穫に選別調整などの各工程に専用の用具が必要とされる。
摘田用具には、田作りの作業の際に畔を成形したハバタ、土中に残る稲の切株を崩したキッコシマンノウ、種籾を藁灰と混ぜ合わせる種づくりに用いたハイブルイ、田摘みの作業の前に目印となる筋を付けたノタクリ、種籾を入れた一斗五升ザル、除草に用いたアヒルやタコスリ、湿田での収穫に用いたタブネやカンジキ、脱穀に用いたカナゴキ、選別調整に用いたトウミやマンゴクドオシなどが含まれる。
種播きの際にはスズメに食べられないよう、灰と混ぜ合わせていたのだという。
畑作用具は、麦作に使用した用具が中心であり、畑の耕起に用いたエンガやジンリキマンノウ、播種に用いた手押しのタネマキキ、麦の株間の土入れに用いたジョレン、収穫に用いたカマ、脱穀に用いたクルリボウやムギウチキなどが含まれる。
文化財を巡る上尾市の取り組み
同用具を収集してきた同市は、2009年度に映像「上尾の摘田 直播による伝統的な稲作の記録」を製作。摘田による稲作を再現した記録映像となっており、あげお文化遺産ガイドで公開している。
また、用具に関わる資料調査整備事業報告書や個々の用具を紹介する冊子なども発行しており、同市役所で購入できる。
今回の指定に関して市SNSでも発表したところ、「嬉しい限り」など地域住民からも喜びの声が上がっている。中には「これをこれからどのように活かしていくのか、が大事な課題」とその継承を今後の課題と捉える声もあった。
このほか、稲作に関わる農業遺産としては2019年に同市を流れる見沼代用水が世界かんがい施設遺産に指定されている。
文化財・指定に関する問い合わせ先
◇埼玉県教育局文化資源課指定文化財担当 ※指定に関して
電話: 048-830-6981(内線698)
◇上尾市教育委員会生涯学習課文化・文化財保護担当 ※文化財に関して
電話:048-775-9496(直通)