4回目を数えた深谷市のご紹介。
渋沢栄一と並び深谷市の名物であるレンガやその製造に関わった施設類を紹介してまいります。
なぜ深谷はレンガの街に?
東京駅の丸の内駅舎など日本を代表するレンガ建築に深谷でできたレンガが使われているということは、皆様もよくご存知なことと思います。
でもなぜ深谷はそこまでレンガの街になったのでしょうか?まずはその背景を探っていきましょう。
レンガの大量生産が急務
1868年の大政奉還から明治新政府が立ち上がると、文明開化によって建築にも西洋の様式を取り入れる風潮が広がってきました。
その中で当時の欧米の主流であったレンガ建築も日本に渡来するのですが、明治初期の日本ではレンガの製造能力もまだまだ乏しく技術も含めてそのほとんどを輸入に頼っている状況でした。
欧米と対等に渡り合うためにも近代的建築による官庁街の建設を模索していた新政府。多くのレンガが必要になることは明白ですが、そのためには従来の小規模生産ではなく大量生産ができる体制の構築が急務でした。
そこから機械式のレンガ工場を造成しようという話が浮上したのです。
良質な粘土が決め手
建設計画を統括していた臨時建設局総裁の井上馨(1836~1915・画像上)は予算面から官営ではなく民営が望ましいと考え、実業界でも活躍していた渋沢に相談を持ちかけます。
渋沢は自分の故郷に近く、良質な粘土を採取でき古くから瓦製造が行われている上敷免村(現在の深谷市上敷免)に造成するのが望ましいと考え、地元や官庁との折衝にあたります。現地調査でも実際に採れる粘土はレンガ作りにふさわしいものという結果も出て、まさにレンガ製造にはうってつけの場所だったのです。
こうして1887年に東京府宛に工場の運営を行う日本煉瓦製造会社の設立届を出し、翌年から工場の造成が行われました。
東京駅や迎賓館にも深谷のレンガ
(同市発行パンフレットより)
そして1888年9月に1号窯が稼働を開始し工場として本格的に始動しました。
以来東京駅や迎賓館をはじめとした明治から大正にかけて多くの近代建築物が同工場のレンガを使用して建てられていったのです。最盛期には6基の窯が稼働し、日本各地に向けてレンガを製造していました。
なおどこの工場で作られたかわかるように一定の数のレンガには刻印が押されるのですが、同工場でできたレンガには地名である「上敷免製」と押されていました。
ですがその後はレンガ需要の減少や海外からの輸入が増えたため、2006年に同社は太平洋セメントの子会社として清算。工場もお役御免となりました。
近代日本を支えたレンガ工場
重要文化財の事務所・変電所
そんな同工場の跡地に実際に行ってみました。
レンガ需要の減少に伴って最盛期は8,000㎡もあった敷地内の建造物はほとんどなくなってしまいましたが、当時使われていた事務所など一部の建造物は1997年に国の重要文化財に指定されています。同社の精算後は同市が引き受けています。
その一つが「異人館」と呼ばれていた旧事務所。工場造成の最初期に作られたもので、自らが設計に携わったドイツ人のレンガ製造技師ナスチェンテス・チーゼとその令嬢の住宅兼事務所として使用されていました。
同氏帰国後は会社の事務所として使用され、1978年からは煉瓦史料館として活用されています。
工場で使われていた刻印などの備品の展示や同社の歴史年表、最盛期の同工場の模型なども展示されており、同市シルバー人材センターの方々による展示ガイドを受けることもできます。
その裏手にあるのが小さなレンガ造りの旧変電室。
1906年にこの地に電灯線を引いた際に建設されたもので、これは同市内では初の電化だったようです。屋根や窓などに多少の改修はあったようですが、建設時とほぼ変わらない形で今に残されています。
大量生産に貢献したホフマン窯
そして工場内でレンガの生産に大いに貢献していたのが、最大で6基あったホフマン窯です。このうち1907年製の6号窯が残されています。
それまでの窯では一度焼けたら一旦窯から取り出してまた窯へというスタイルが主流でした。それだと手間も時間もかかってしまいます。
(深谷市「渋沢栄一デジタルミュージアム」より)
考案したドイツ人技師ホフマンの名がつけられている同窯では、窯を輪状に配置することで一つの区画で焼きあがったら次の区画へという感じで連続してレンガを焼き上げることができます。18の区画に仕切られ、一つの区画で18,000個ものレンガを焼き上げていました。
常に火を灯さなければならないため、1000度近い高温の窯で3交代でレンガの製造が行われていました。同窯も1968年までレンガの製造に利用されていたそうです。
なお同窯は2023年ごろまで保存修復工事を行なっているため、内部の見学は残念ながらできません。
スポット紹介
◇旧日本煉瓦製造会社 レンガ製造施設
- 住所:埼玉県深谷市上敷免28-10
- 電話番号:048-577-4501(深谷市文化振興課)
- 開館時間:9:00〜16:00
- 開館日:土曜日・日曜日(4/27〜5/6までの期間は連日開館)
- 備考:ホフマン6号窯は2023年ごろまで見学不可